[[【KRロシア】黒馬を見たり]]

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*ペテルブルクの嵐 [#o38e7fd3]

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 世界は、ロシア革命は終わったと考えている。
 誤ってはならない。ロシア革命は、まさに始まったところなのである
                          ―――アレクサンドル・ケレンスキー

**革命未だ成らず [#j5a08164]


かつてのツァーリが築いた北の都を、銃声と悲鳴が木霊する白亜の街を、黒塗りの自動車が駆けている。
私はロシアの将来を決める文書を携えて、極北の都が流血の巷と化している様をじっと見つめている。
街は今や騒乱状態にあり、秩序が早急に回復されなければあの槌と鎌の旗が、亡霊のように鳴り響くインターナショナルと共にやって来るだろう。
それは今度こそペトログラードを埋め尽くし、踏みにじり、ロシアの全てを歴史の掃き溜めへと追いやるに違いない。
レナ川に灰を撒かれたレーニンが、白衛軍の色あせた旗をあざ笑う幻覚に襲われた私は、十字の勲章を握り締めながら鼻歌交じりの運転手に声を掛ける。
運転手の名は、ヴォスコボイニクと言った。

&ref(カッペリ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);運転手さん

&ref(MRUS Voskoboinik.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);何です、旦那(パーリン)

&ref(カッペリ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);あんたは戦闘団の幹部と聞いたが、本当か

&ref(MRUS Voskoboinik.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);アンタは俺のような新入り、顔を合わせた事も無いはずですな。カッペリ将軍

&ref(カッペリ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);近ごろ、君たちのボスは羽振りがいいみたいだからな。戦闘団への参加者も増えていると、駐屯地ではもっぱらの噂だ

&ref(MRUS Voskoboinik.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);無理もないですよ。ケレンスキーの大統領が頭を吹き飛ばされるご時世だ。何が起きてもおかしくは無い

&ref(カッペリ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);……大統領は、やはり死んでいたのだな

&ref(MRUS Voskoboinik.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);そりゃあそうだ。ドゥーマに向かう途中、極左のバカにモーゼルで撃たれたんですよ。全く、棚から牡丹餅とはこのことだ

ヴォスコボイニクは笑った。彼らを邪険に扱った議会の象徴の死に、象徴を殺したテロリスト集団の中に入った深刻な亀裂に……何よりも真珠のように光り輝いて、自分のような荒くれを舞台の上にもあげない街の狂乱ぶりを笑っている。一歩踏み出せば、彼らのような悪党が大手を振って宮殿の主になれる時代が来るのだから。

&ref(MRUS Voskoboinik.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);親方(ヴォーシチ)には何の用です。カッペリ将軍

私、ウラジーミル・カッペリは息を大きく吸って答えた。

&ref(カッペリ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);ロシアの僕たるラーヴル・ゲオールゲヴィチは、再びボリス・ヴィクトーロヴィチを片腕に欲している。そう伝えに行けと言われた。

**打ち倒された双頭の鷲 [#w5c50c38]

第一次世界大戦において、ロシアは最大の敗者となった。
ロシア軍はブルシーロフ攻勢をはじめとする激闘を繰り広げたにも関わらず、戦局は日に日に悪くなっていった。
将校や王侯の士気は高かった。しかし民衆はあの戦争にさしたる意義を感じてはいなかった。
そして、そうした人々の心に巣食っていったのは、ウラジーミル・レーニンをはじめとするボルシェビキの徒党だった。

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レーニンは1918年、トロツキーと共謀して臨時政府を打倒し、「ソビエト労働者共和国」を作ろうとした。ところがこの「共和国」には選挙など無かった。
社会革命党右派が与党になると、議会は瞬く間に解散されたからだ。
「労働者」も居なかった。労働者はふるい分けられ、異端とされた者たちは断頭台の露と消えた。
世界が共産主義と言う物語に心を震わす中、ロシア人は別の意味で震えていた――いつチェーカーが自宅を訪れ、家族を永久に引き裂くか知れなかったのである。

唯一の希望は、最初に反ボルシェビキの口火を切ったラーヴル・ゲオールゲヴィチ・コルニーロフと、彼の影としてクーデターを計画したボリス・ヴィクト―ロヴィチ・サヴィンコフだった。
彼らは革命後、ドン=コサックに譲歩を重ねて反革命軍を組織し、4月13日にはエカテリノダールを制圧。自らを「白衛軍」と称したコルニーロフは、サヴィンコフをチェリャビンスクに向かわせた。
戦前諜報活動に従事していたコルニーロフは、トロツキーのエリート的な独断に反発したチェコ軍団が、ウラル近辺で武装蜂起した事を察知したのである。
サヴィンコフは軍団を味方に付けた後、戦局をひっくり返したドイツ軍がボルシェビキの敵になった事にも味方され、エカテリンブルクを占拠する事となった。
そして、この時わたしはサヴィンコフと共に、ロシアの偉大なる血筋が根絶やしにされた瞬間を目撃した((公式フォーラムでは亡命したとある))。

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だが白衛軍は打ちひしがれるどころか憤激し、モスクワへ! モスクワへ! を合言葉に、あらゆる箇所で進軍し、蜂起した。
一方のソビエト政府は自ら下策を取った事に気づき、内輪もめを始めた。まず、マリア・スピリドーノワをはじめとする浪漫派の革命家がレーニンに対して刃を向けた。
「レーニンが土地と自由を奪った」事実に今さら気づいて、自分たちはその咎を免れるべく、泥船から逃げるネズミと変わらない醜態を見せ始めた。
過激派どもの共食いの隙を突いてカザンまで達した時、凱歌が高らかに鳴り響く中で我々は更なる吉報を聞かされた。
ウラジーミル・イリイチ・レーニンが凶弾に倒れた――

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彼は革命の敵を打ち倒す為に用いたテロと言う諸刃の剣に、自分の生命を断たれる事となった。
凱歌が天にも轟くほど勢いを増す中、それでもサヴィンコフの顔が曇っていく有様を私は不思議に思った。
彼こそがウラジーミル・レーニンを打ち倒す武装蜂起の立役者なのに、まるで自分が敗北したかのような顔をしている。

&ref(カッペリ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);この戦争、我々が勝つのだぞ

サヴィンコフは、そう聞く私を頓馬でも見たように嘲笑して、ぼんやりした目付きをしながら呟くように言った。

&ref(親方サヴィンコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);奴を殺したのは、民衆のギロチンではない……

あれから十数年、私とサヴィンコフは会話を交わせなかった。二人ともボルシェビキを打ち倒し、偉大なるロシアの再建に四苦八苦していた。
大ロシアはツァーリが居た頃とは比べ物にならないほど弱くなり、内戦が終わって十八年経った今も、国際社会から侮蔑の眼差しを受けている。
私は今も、祝勝会で蒼ざめた顔に嘲笑を浮かべていたサヴィンコフの心境を知らない。彼は人と群れず、わずかな心情を「ロープシン」と言う人格の下で露わにするだけだ。

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 ロシア人がロシア人に勝ってどうする
                          ―――「黒馬を見たり」

**コルニーロフ、前進 [#n167b7c4]

ノスタルジーから来る回想は、いつのまにか私を眠りの国に誘っていた。
喧騒とけたたましい音楽で目を覚ました私は、ヴォスコボイニクの酒臭い息が自分の顔に吹きかかるのを防ぐ事が出来なかった。

&ref(MRUS Voskoboinik.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);いつまで寝てるんです

&ref(カッペリ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);(顔をしかめるのはまずい)……あぁ。どこだここは

&ref(MRUS Voskoboinik.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);ビアホールですよ。ビ・ア・ホ・ー・ル! 何せ、アドルフ曹長の血筋が経営してますからね

&ref(カッペリ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);胡散臭いな

「我らが闘争」をこの世に遺したヒトラー曹長の「血筋」が経営する88と言う店に、私たちは足を踏み入れた。
客は皆、白い制帽に黒い制服を着た戦闘団員……サヴィンコフの私兵たちだ。
彼らの中にはメガネをかけた青白のインテリも居る。私が目に掛けていた若手将校が、ジョッキを片手に女の片乳を揉みしだいている。
農奴そのものの顔付きをした男が狩りの話をして大はしゃぎし、金持ちの坊ちゃんが勲章を見せびらかしたすえチンピラに殴り倒されていた。

&ref(MRUS Voskoboinik.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);面白い奴らでしょ

&ref(カッペリ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);友人には持ちたくないがね。ところであの空席と、バカでかいラジオは?

&ref(MRUS Voskoboinik.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);あぁ……あれね。あれはドイツから密輸して来た物でして

&ref(カッペリ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);まるで国盗りでもして来たような調子で言うんだな……

ヴォスコボイニクに促されるまま、私は空席を尻で埋めた。途端に女たちが寄って来てビールを注ぐのに辟易しながら、ラジオの方に神経を集中する。

&ref(名無し.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);……ケレンスキー大統領が、健康上の理由により大統領の職務を遂行できない事から

&ref(名無し.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);ロシア国家元首の権限が、''参謀本部に''移りました

私は、ビールが満杯に注がれたジョッキを落とした。

&ref(名無し.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);ロシア参謀本部は声明を発表し、その中でロシアの特定地域に半年間、非常事態が導入されたと指摘しました

&ref(カッペリ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);……おい

&ref(MRUS Voskoboinik.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);静かに

&ref(名無し.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);また、国の管理と非常事態体制の効果的な実現のため、''ロシア国家最高枢密院''が作られました。国内全域が無条件で、最高枢密院の支配下に置かれ、全ての機関、国民は同枢密院の決定を厳密に遂行する義務を負います

&ref(名無し.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);最高執政官ラーヴル・コルニーロフ将軍は、ロシア国民に向けたアピールを発表しました

**サヴィンコフ、暗躍 [#zad99a86]

&ref(Mrus Kornilov.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);我々は本日、首都並びにロシア全土の主要都市を軍の統制下に置いた。しかしこれはクーデターなどと言った代物ではなく、亡国の危機とそれを画策する勢力に対し「先制攻撃」を仕掛けたものであると理解していただきたい

&ref(Mrus Kornilov.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);先の大戦以後、ロシアは細切れに分割され、かつての栄耀栄華は昔話か、夢物語のように唾棄されて来た。我々もまたロシアの将来的な再起を信じ、今日この日まで続いた怠業の言い訳としてきた

&ref(Mrus Kornilov.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);しかしどうだろう! 今のロシアの有様は。眩い二月革命の栄光は、ドゥーマの議員たちが彼ら自身の贅沢を守る免罪符と化した

&ref(Mrus Kornilov.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);自由の名の下に銃剣を引っ提げ、地獄を突き進んだはずの民衆が飢え、苦しみ、またぞろスピリドーノワやブハーリンのアカ共が蠢動して、赤色革命の夢を再び見ようと人々を扇動しているのだ

&ref(Mrus Kornilov.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);もはや死につつあるロシアを見過ごす事は出来ぬ。我々は自らを「白衛軍」と称して来たならば、ロシア国家を再び繁栄に導くべく、救国の志に生命を擲たねばならん

&ref(Mrus Kornilov.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);火のない暖炉の前に震える老若何女は安心して欲しい。この数日間、諸君には白パンが配られ、肉の入ったスープも届く

&ref(Mrus Kornilov.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);未だ辺境にて戦い続ける兵士諸君。そしてそれを指揮する者たちは、この義挙に参加する事なく自らの任務を全うして欲しい。我々は権力で無く、ただロシアの救済のみを使命に立ち上がったので有る

&ref(Mrus Kornilov.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);そして…………ドゥーマの諸君

&ref(サヴィンコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);

&ref(Mrus Kornilov.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);この演説から四十八時間以内に事情が明らかになる事を覚悟せよ。諸君、自分の心にあるのは個人の私利私欲でもなく、政権への欲求でもなく、下劣な俗情でもない。ただ限りなく、勢い強い、祖国への愛だけだ!

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&size(20){У Р А !}; 
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&size(20){…………};

&ref(サヴィンコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);……見事なものですな。ラーヴル・ゲオールゲヴィチ

&ref(Mrus Kornilov.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);……

&ref(サヴィンコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);本来ならケレンスキーも交えた盛大な儀式にするつもりだったが、先に殺されてはどうしようもない。むしろ貴方には良くやって頂いた

&ref(Mrus Kornilov.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);称賛は要らぬ。祖国への義務を果たしただけだ

&ref(サヴィンコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);議員たちの説得はユスポフ公に任せております。理解しがたい趣味の持ち主ですが使える男です

&ref(サヴィンコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);ケレンスキーが果たすべき義務を公が果たし、ペトログラードには圧倒的多数の愛国政権が誕生するでしょう

&ref(サヴィンコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);ロシアと言う痩せこけた馬を見事に乗りこなし、再びキリスト教帝国の栄光を我らが国にもたらして下さい……

&ref(Mrus Kornilov.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);ボリス・ヴィクトーロヴィチ

&ref(サヴィンコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);?

&ref(Mrus Kornilov.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);実に興味深い話だな。ケレンスキーにこの計画を伝えていたとは

&ref(サヴィンコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);彼もまたロシアの愛国者です。自由や民主主義と言った空理空論より、美しいロシアの大地を選んだのです

&ref(Mrus Kornilov.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);その愛国者がペトログラードでオープンカーを乗り回し、民衆に手を差し伸べている間、私は親衛隊と共に身を固めていたのだ

&ref(Mrus Kornilov.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);私は盟友に対してこのような質問はしたくないのだが……ボリス・ヴィクトーロヴィチ

&ref(Mrus Kornilov.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);ケレンスキーを餌にクーデターを成就させた((史実でも三人がクーデターを共謀し、レーニンたちをせん滅する計画が存在したと主張する学者が居る))訳じゃ有るまいな?

&ref(サヴィンコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);……コルニーロフ将軍

&ref(親方サヴィンコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);失われた時は戻りません。ただ前進あるのみなのです

**神と祖国の名の下に [#cf7938c8]

ラジオは盛んにコルニーロフ将軍の演説を垂れ流している。私はジョッキが机に置かれているにもかかわらず、ラジオの方だけを見て呆然としていた。

&ref(MRUS Voskoboinik.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);驚きましたか?

&ref(カッペリ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);……あぁ、心臓が飛び出るかと思った

&ref(MRUS Voskoboinik.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);親方の手並みは凄いでしょう。ケレンスキーの野郎、権力が欲しいからってむかし逮捕したコルニーロフ将軍にも泣きついて

&ref(MRUS Voskoboinik.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);そのくせクーデターが決まると、民衆へのリップサービスに必死になって。殺されて当然だ、あんな奴

&ref(カッペリ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);だが、ケレンスキーが死んでからどうする

&ref(MRUS Voskoboinik.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);はぇ?

&ref(カッペリ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);冷静に考えてくれ。コルニーロフ将軍は権力を握ったが、統治にはドゥーマの協力が必要なのに変わり無い

&ref(カッペリ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);あのような声明を発表したら、ドゥーマの議員たちは何と思う? 我々が軍に厚遇されるのか、優遇される為にはどんな賄賂が必要か……それのみに心が向いて、職務を遂行できまい

ヴォスコボイニクは私の顔をじっと見た。戦闘団員は私に憎悪たっぷりな目を向ける。私は初めて渇きを覚え、ジョッキを一気に呷った。

&ref(MRUS Voskoboinik.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);お古い考えをお持ちで……

ヴォスコボイニクは黄色い犬歯をむき出しにした。犬歯は歯石塗れで、血に汚れているようだ。
彼の犬歯がむき出しになったのを合図に、戦闘団員の笑い声が酒場に響く。私は執拗な笑い声に晒し者のような感覚を覚えながら、華奢な足音が近づいて来るのを感じた。
その足音は喧騒を鎮め、ツァーリの血統と共に消えて久しかった畏敬の炎を、ペトログラードの好色街に灯していた。

&ref(アナスタシアさんじゅうさんさい.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);まぁ……

&ref(カッペリ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);!?

&ref(アンナ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);貴方が「小ボナパルト」ね!

&ref(カッペリ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);……はぁ

思わず敬語で反応した私は、しかしその判断を蔑まなかった。いかに口を手で覆う女がクマを作った目で私を見ていても、体から発散される高貴さを打ち消す事など出来ない。

&ref(アンナ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);ロープシンから聞いたの。貴方をここに呼んだから、ユスポフ公の下へ連れて行ってくれないかって。クマを隠すのに苦労したのだけれど……まだ見えてる?

&ref(カッペリ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);いえ

&ref(アンナ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);なら良いわ……ユスポフ公は困っていらっしゃるもの。普段目に掛けてくれる人を助けなければ、父や母に面目が立たないわ。協力してくださいな? フォン・カッペリ

&ref(カッペリ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);承知いたしました

澄んだ瞳の女が私の耳元に顔を近づける。

&ref(アンナ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);アンナ・アンダースンよ。ロープシンの''ファン''なの

歩き出した女の背中を見続けながら、私はヴォスコボイニクの酒臭い息が耳元で響くのにウンザリした顔を見せてしまった。
ヴォスコボイニクはジョッキを投げ捨て、懐の拳銃を私に向けながら唾を飛ばす。

&ref(MRUS Voskoboinik.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);聞きましたね、将軍!

&ref(カッペリ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);何をだ

&ref(MRUS Voskoboinik.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);今から冬宮殿に行って、議員たちをユスポフ公と共に説得しなきゃ

&ref(カッペリ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);…………何だと?

&ref(MRUS Voskoboinik.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);第一戦闘団は貴方の指揮下に入ります。後、軍事コミッサールが貴方の補佐をするので、反体制派撲滅のご采配をば……

&ref(MRUS Kaminski.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);カミンスキーと申します。どうぞ、良しなに…………

カミンスキーと称した男の冷たい手が、私の利き手を運命ごと握り締めた気がした。
私は、かつてテロリストとして国を追われた男が、戦時においては英雄然として反ボルシェビキ闘争を完遂した男が、ニヒルな作家として、一匹狼の孤高なアジテーターとしてロシアを騒がせた男が――
一夜のうちに権力を手中に収め、上からのテロルを実行に移すのだと。

次回、[[1936年 血まみれのマリア>序章 ペテルブルクの嵐]]

[[【KRロシア】黒馬を見たり]]

TIME:"2018-01-14 (日) 22:20:55"

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