#contents

*アッティラ [#r377265b]

**ノブレス・オブリージュ [#r58db0d4]

***奉天 [#ea024402]

奉天の軍事飛行場に、ロシアの国籍マークを付けた輸送機が舞い降りて来た。輸送機には国籍マークのほかに、二頭の獅子が王冠と月を支える紋章で彩られている。
周囲の将校たちが怪訝に思う中、鞘に収まった刀を杖替わりにしている男が呟いた。

&ref(KR荒木貞夫.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);フェリクス・ユスポフ公爵殿下か
&ref(青年将校.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);は? ……あの、ロシア最大の資本家でございますか
&ref(KR荒木貞夫.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);歌舞伎で言う女形でな。立ち振る舞いも優雅と聞くが……あの男、実は趣味でやってるんじゃないかという話が有っての

荒木貞夫が、事も無げに肯く武山大尉を小突いて笑った。

&ref(青年将校.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);あれは衆道が好みなのですかな?
&ref(KR荒木貞夫.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);麗子夫人一筋のおぬしには、関係ない事か


後に「2.26事件」「昭和維新」と呼ばれるクーデターが起きたのは、「国家安全基本法」を否決し、サンディカリストの度重なる警察署、官庁襲撃に手を拱いていた議会の軟弱さに原因がある。
国家の安全保障よりも代議士たちは談合や献金を議論し、サンディカリストが「天ちゃん」と公言した際には拍手するリベラル派の議員も居た。彼らは爆弾魔と席を共にしながら共に芸者と四六時中舞っていた。

http://art5.photozou.jp/pub/867/3222867/photo/253795774.v1517439496.jpg

そしてその間にも、荒木貞夫・真崎甚三郎・岩畔豪雄が集い、急進的な軍事革命委員会設立のため安藤輝三や磯部浅一を糾合し、東京府全体を制圧した。
彼等の急進的クーデターは各地に散るサンディカリストの暴発を招いたが、昭和天皇銃撃から数ヶ月のうちに、名だたる革命家が銃殺された事で新政権は国民のお墨付きを受ける事となった。
誰もが格差の是正を求めていたが、「お上」を襲う不逞者まで求めていなかった。

&ref(KR荒木貞夫.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);だが、何はともあれ公爵殿下は、ラスプーチンを誅殺した人傑。粗相のないようにせねば……

荒木が右手を振ると、軍楽隊が一斉に吹奏楽器を持ち上げた。輸送機が滑走路に着地しタラップから白面の貴公子が姿を現すと、壮麗な音楽が天地に響き渡る。

&size(20){''燦たり輝く 八端十字''};
&size(20){''ようこそ遥々 北なる盟友''};

北原白秋の「万歳ロシア少年軍」が轟くや、ユスポフ公爵は顔を引きつらせながら右手を高く上げた。荒木貞夫は立ち上がってから駿馬に跨り、地に足つけた公爵まで早駆けする。

&ref(KR荒木貞夫.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);どぉ、どぉ
&ref(MRUS Yusupov.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);おぉ……さすがは徳川の血を引くお方、乗馬はお得意なようですな
&ref(KR荒木貞夫.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);顔はあまりよろしくないですがな、ハハハ

荒木が公爵を引っ張り上げ、共に乗馬しながら武山大尉の方へ戻って来た。遅れてやって来たロシアのコサックが武山に隣り合い、荒木とユスポフの会談を見守っている。

&ref(KR荒木貞夫.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);さて……こたび我らが集うたのは、一体いかなる故あっての事でしたかな
&ref(MRUS Yusupov.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);総督閣下と岩畔少将殿が、直に話を致しましてね……「日露協商上、邪魔となる国境線の再画定をする」との由

荒木はゆっくり肯いた。

&ref(MRUS Yusupov.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);モンゴルのロマン・ウンゲルン男爵は、もはや正気を逸し自分のチンギス・カンの末裔とのたまう始末。民心も離れシベリア鉄道の国境警備隊から、ロシアへの亡命者も出ております
&ref(KR荒木貞夫.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);然り、然り。トランスアムールにおいても、コルチャークがケレンスキー暗殺の折、シベリア各都市にコルチャーク政府を正統なロシア政府と認めるべしとの密書を送ったとか

哀れな事だ。と荒木は笑った。ユスポフはその感触に違和感を覚えた故に、荒木に対し直截的な質問をする。

&ref(MRUS Yusupov.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);コルチャーク提督と、東京政府の関係はよろしくないのですか?
&ref(KR荒木貞夫.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);あんなものは獅子身中の虫です。生かしておけば次は何をしでかすか……無能な味方より、恐るべき敵と手を結ぶべきだ。この件に関しては儂と、親友の眞崎も同意見で
&ref(KR荒木貞夫.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);むしろ帝国と致しましては、かのドイツを陸で抑えて下さる方が断然良いのです。彼奴らが貴方がたの鉄の軍隊に苦しむ間、我らが中国南部を扼し、溥儀に従属を迫る
&ref(KR荒木貞夫.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);カイゼル殿の言に倣うなら、「余は太平洋提督とならん。貴殿は大西洋提督となられよ」と言ったところですかなぁ
&ref(MRUS Yusupov.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);……我々の方でも、付け加え打診したい由がございます
&ref(KR荒木貞夫.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);ほう?

ユスポフは咳払いしてから、荒木の目をじっと見据えて言った。

&ref(MRUS Yusupov.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);貴殿の軍が抑えた北サハリン、ぜひとも我らの手にご返還いただきたい

荒木は、この若い貴公子の顔が気迫に満ちているのを見てヒゲをさすった。

&ref(KR荒木貞夫.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);今ので、貴方がたの分が七、我らの分が三になりましたぞ?
&ref(MRUS Yusupov.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);自信と気風を取り戻したロシア国民は、日本との同盟に些か及び腰です。これに北サハリンの問題まで絡めば、おおかた保守的な宗教関係者を説き伏せられません
&ref(KR荒木貞夫.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);それは、貴方がた政府の責任です。ましてサヴィンコフ総督は、類例に無い権力をお持ちのはず
&ref(KR荒木貞夫.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);必要とあらば我々の意見を聞き入れ、六分四分で交渉を妥結させる事も出来るはずでは……?

ユスポフは荒木の目が、こちらの譲歩を願っているように思えた。しかしユスポフもまた、貴公子的な誠実さだけが取り得の男では決してない。

&ref(MRUS Yusupov.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);私は輸送機に居る間、ハルビンに特区を築いたユダヤ系新聞を見ました

荒木の眉間が、些か険しくなった。

&ref(MRUS Yusupov.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);現地人との対立がひどく、中国人がユダヤ人に押し込み強盗を働く事もしばしばとか。ある筋の話では、既に日本政府がユダヤ人特区の移転先に悩んでいるとの事で……
&ref(KR荒木貞夫.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);何が言いたいので……?
&ref(MRUS Yusupov.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);古来より、日露関係の障壁となったのは樺太です。最初は共有関係にあったのが帝国主義によって、片方が奪い片方が取り返すと言うのを続けている
&ref(MRUS Yusupov.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);しかし、最早情勢は角逐で無く融和を求めています……その起点をユダヤ人居住区の創設から始めようとの考えが、最高枢密院会議の中で主流となりつつあるのです

荒木は武山大尉に目を向けた。それから白い歯を見せた後、笑い声をあげてユスポフ公爵に目を転ずる。

&ref(KR荒木貞夫.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);樺太に……ユダヤ人の国を作ると?

ユスポフ公爵は、気品と妖艶さすら漂う微笑みを見せる。

&ref(MRUS Yusupov.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);そしてその費用を、我がロシアが半分負担しようと言うのです

***ロンドン ヴァン・ヘルシング邸 [#d138bb99]

&ref(トロツキー.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);ふぅむ……

レオン・トロツキーは、エリック・ブレアのニュースピーク・アーミーに守られながらヘルシング邸に入った。
ここには戦前の英王国軍が秘匿していた無線機等があり、さながらここがロシアのРПКよろしくの特務機関である事を示唆していた。
しかし今やそれも主は無く、トロツキーが旧主の愛用したイスに座り、葉巻に火をつけて煙を吐くだけだ。

&ref(トロツキー.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);素晴らしい邸宅だな。Mr.ブレア。吸血鬼などと言った迷信を信じる貴族の家とは思えん
&ref(トロツキー.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);広い庭があり、噴水があり、日の当たるエントランスがある……将来ここは労働者の教育施設にするのはどうだろう? 「迷信の墓標、人民の揺籃」というのはどうかね?
&ref(オーウェル.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);はぁ……

エリック・ブレアは、この社会主義の知恵袋に辟易していた。彼と会ったのはヘルシング邸から奇妙な軍隊がダウニング街を襲った時である。
白いコートを着た少女が黒い犬のようなもので正規軍を叩き潰した後、モズレー議長はブレアにトロツキーを参謀とし、ヴァン・ヘルシングの血筋を根絶やしにするよう命じた。
ブレアは初め英空軍を縦横無尽に活用して敵の一掃を図ったが、トロツキーがこれに反対し、ウェストミンスター寺院にある聖遺物を片っ端から集めて武器に使うよう進言した。
今、寺院にあるのは王族をあげつらった風刺画と、ガイ・フォークスの仮面が企てた英王室暗殺を讃える諸々の展示物だけだった。

&ref(トロツキー.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);ヴァン・ヘルシングが最後に吸ったシガーを見たか? あれはカリブ連邦の、しかもキューバの葉巻だ。これだけで奴が「人民の敵」だと糾弾できる。何せ敵国の商品を持っていたのだからね
&ref(トロツキー.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);安産型の少年執事が居たのも犯罪要因だな。社会主義においてはホモセクシャルなどと言う病気も直しておかねば……が、最も恐るべきは、中世の騎士道物語からはい出したようなあの怪物だ

トロツキーはブレアに手を差し出した。

&ref(トロツキー.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);あのドラキュラを「解剖」した結果、何が分かった?

ブレアは資料を手渡した。いつの間にかついたラジオからは、ロシア軍がモンゴルの首都ウルガを制圧した旨が報道されている。

&ref(トロツキー.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);この様子だと瞬殺だな。鬼の首でも挙げたような降伏文書との記念撮影もすまい……Mr.ブレア
&ref(オーウェル.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);?
&ref(トロツキー.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);前頭葉除去という言葉が気に食わんな。やったとすればなぜ吸血鬼は正気を保っている? あれ自体が重要では無く、あれの力が革命に転化する事が重要なのだぞ
&ref(オーウェル.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);努力しております。しかし頭を吹き飛ばしても心臓を吹き飛ばしても死ななかった少女です。聖遺物を銃弾に変え、爆弾として投擲し尽くした今、彼女には際限なくロボトミーを施しながら遺伝の解明に当たらねば……
&ref(トロツキー.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);……非科学的で、敗北主義な報告書だ。だがこうしたものを解明する意思は素晴らしい
&ref(トロツキー.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);私はねブレア君、かつてペトログラードからフランスに逃れる時、サヴィンコフの手下、黒百人組に誰何され立ち止まったのだ。このトロツキーがうつぶせで死ぬような事は、後世の革命の為あってはならぬからな
&ref(トロツキー.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);ところが私を見た黒百人組は何を勘違いしたか、私をオデッサの貴族だと思った。だから私は当てつけに、「ジョージ・オブライエン」を名乗った、サヴィンコフがかつて名乗った偽の名をだよ?

トロツキーはやにわに立ち上がりジェスチャーをした。まるでそこにはペトログラードの民衆が並び立ち、彼の教祖の如く崇拝しているかのようだ。

&ref(トロツキー.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);「人生は美しい。未来の世代をして、人生からすべての悪と抑圧と暴力を一掃させ、心ゆくまで人生を享受せしめよ」これこそが我が座右の銘だ。我らと我らより後の孫の世代には、戦争という文言が夢物語で無ければならん
&ref(ライリー.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);感動的ですな! 実に、感動的だ

朗々たるイギリス貴族的な笑いが部屋に木霊する。エリック・ブレアはホルスターの銃を手に取ったが、トロツキーが右手を挙げて制する。

&ref(トロツキー.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);0・0・7! ……十月革命の裏切り者にして、転向者。スパイの中のスパイ、裏切り者の中の裏切り者

トロツキーは「007」の体を抱きしめた。そして背中を乱暴に右手で叩き、白い歯を見せつけながら何度も肯く。
男の名はシドニー・ライリーと言って、かつての大戦においてはサヴィンコフと共に、レーニン暗殺に加担した男であった。

&ref(トロツキー.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);首尾はどうだね。君まであのドラキュラを解剖するのに使ってしまって済まんね
&ref(ライリー.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);ジハーディストは、予想外に惰弱でした。ツァーリグラードが現出した事態をお許しください
&ref(トロツキー.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);何、ボリス・ヴィクトーロヴィチは痴呆を発したのさ。痴呆は退行し、歴史と言う過程を顧みなくなる……それで、あのドラキュラで何か掴めたかねぇ

ライリーがトロツキーに耳打ちすると、トロツキーは口角を釣り上げた。しかし眉は垂れ下がり些か困惑しているように見える。

&ref(トロツキー.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);怪物と言うのはどうしてシャイなのだろうねぇ……処女や童貞を好き好んで眷属にする。信じられるかい? メキシコで最高の女流芸術家を、わざわざこの薄ら寒いイングランドに連れて来た私とは大違いだ
&ref(ライリー.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);しかし吸血鬼の軍隊を作るのは、ブリテン連合正規軍の戦力を飛躍的に高めるでしょう。彼らは不死で、恐れを知らず、食糧を調達できます
&ref(トロツキー.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);Mr.ブレア、よく銘記したまえよ。これからのブリテン連合は童貞税でなく「童貞懲役」を行う。遺族に見舞金を出し、吸血鬼となった息子が世界人民を解放する雄姿すら見せてやる

エリック・ブレアは、あまりの提案に掠れた声を漏らした。

&ref(オーウェル.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);閣下
&ref(トロツキー.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);何かね?
&ref(オーウェル.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);革命は、それほどの血を必要とするのですか?

トロツキーは肩を竦め、ライリーに笑って見せる。

&ref(トロツキー.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);平均的な革命家の発想だな。だが、真の革命家はまったく違ったふうに行動する。彼は手あたりしだいにつかみ、捕らえ、強奪し、肉ごとひきちぎり、こう付け加える……「説明は不要だ」

-----

トロツキーの予言通り、ロシアとモンゴルの間で行われた戦争は数週間で終わった。

http://art1.photozou.jp/pub/867/3222867/photo/253820254.v1517572483.png

形式ばった視点から見れば二ヶ月に渡る戦争は、ユダヤ人移送の為に費やした鉄道補修を差し引けば一ヶ月にも満たないものであった。
ロマン・ウンゲルン・フォン・シュテルンベルクは、壮大な気宇に反した小さな国力からユダヤ人の拘束と財産没収と言う悪手を打って、結果的に日本軍からも牽制を受ける始末だった。
サヴィンコフはこの体たらくに乗じてドロズドフスキーに進軍を命ずると、ドロズドフスキーは鉄道による機動戦を行い、モンゴルご自慢の騎兵部隊を死の荒野に葬り去った。

http://art1.photozou.jp/pub/867/3222867/photo/253819901.v1517571495.png

ロマン・ウンゲルンの自裁はモンゴル式で行われた。自ら埋葬用の布に包まった現代のハーンは、モンゴル騎兵の残党の馬蹄によって己の地を大地の養分とした。
彼を拘束すべくやって来たロシア軍兵士が、余りの惨さと、それを淡々と実行したモンゴル騎兵に嫌悪感を覚え嘔吐したと言う話すらある。
いずれにせよ、内戦からモンゴルの草原地帯を支配していた狂男爵の死により、ウラジオストックへの道程は解放された。

http://art1.photozou.jp/pub/867/3222867/photo/253819907.v1517572952.png

満洲へのユダヤ人移送が完了した後、ロシアはトランスアムールにおける国民投票実施を日本に要請。動乱の気配が色濃くなる中国大陸を手中に収めんとする日本は、万全を期す為ロシアに変化球とも言える提案を行った。
「沿海州を返還し、樺太全土を共同経営するかわりに日露協商を再締結する」
ロシアにとって魅力的な提案だった事は疑う余地も無かった。彼らはシャンパンを開けながら日露戦争の話をし、共に二百三高地に詣でて死者を弔った。
密談を聞き付けたコルチャーク提督は、東京へ飛ぶ飛行機が「不慮の事故」を起こしたせいで頓死。内戦最大の英雄は、その死をロシア人民の歓呼によって迎えられたのである。

http://art1.photozou.jp/pub/867/3222867/photo/253819909_624.v1517572952.png
http://art1.photozou.jp/pub/867/3222867/photo/253821006.v1517574496.png

樺太は折半され、旧国境が日露間の間で再策定された。また、港にフジツボがこびりついていたロシア海軍は、大日本帝国の連合艦隊から山本五十六を参謀として招き、大艦隊の再編に取り掛かる。
一方の日本軍も、ロシアによって囲われたユダヤ人物理学者と面会し、「ある計画」に関する情報から一つの組織を結成した――

&ref(石原莞爾.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);ユダヤ人学者のアインシュタインはこう言った。「この兵器が続けて用いられれば、次々大戦はこん棒が主力となる」と……しかし私の考えは、異なる
&ref(石原莞爾.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);世界は、信ずるべき神の喪失とその代謝に足る新しい権威を求め、血の涙を流している。この新しい権威の力を遍く世界にもたらせるのは、天皇をおいて他にない
&ref(石原莞爾.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);天皇の慈悲が四海に満ちて、王道楽土を建設する時においてこそ初めて世界は平和になる……そして、天照大神の力ともいうべき新型爆弾が日本とロシアの手中に収まった時、八紘一宇の途が切り開かれるのだ

グレートブリテン島において二度用いられた、全ての戦争を終わらせる兵器……「ツァーリ・ボンバ」の開発は、日露猶の科学者が集う形で行われ始めた。

**インドラの矢 [#b01d6efb]

***コマンドルスキー島 ユスポフ財団研究所 [#yfa65eac]

&ref(アンナ2.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);わぁ……キレイ
&ref(MRUS Yusupov.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);ここが、ロシアの最東端たるコマンドルスキーですよ。アンナ

ユスポフは、養生中のアンナ・アンダースンの手を撫でた。妻帯者であるユスポフのアンナを見つめる眼差しは、心なしか優しく見える。

&ref(アンナ2.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);公爵様。ごめんなさいね。私がクレムリンで倒れたばかりに
&ref(MRUS Yusupov.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);良いのですよ。トロツキーという男は刺激が強すぎる。ボリス・ヴィクトーロヴィチにも少し注意してもらわねば

彼らは、ピョートル・ヴラーンゲリと石原莞爾が角を突き合わせながら議論し続けるのを見守っていた。ツァーリ・ボンバのあまりの威力とその代償故に、ユスポフ個人が資産を叩いて島を買う羽目になった。

&ref(アンナ2.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);けれども、彼らは何の議論をなさっているのでしょう
&ref(MRUS Yusupov.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);平和の為の議論ですよ
&ref(アンナ2.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);ふぅーん……でも、イシワラとか言う男が好きじゃないわ

もっともだ。という言葉をユスポフは飲み込んだ。石原莞爾は蝙蝠のような男で、初めは「統制派」と呼ばれる軍閥に居たものの、彼らが力のない事を知るや皇道派に鞍替えした男だ。
まして、アメリカ内戦の際はハワイ王国からカリフォルニア州の独立を煽り、「軍事顧問」を称して太平洋諸州を日本経済圏に収める荒業を行っていた。

&ref(アンナ2.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);ヒグチ閣下みたいな、ユダヤ人を助けてくれる軍人さんが居たら、なお良かったのに
&ref(MRUS Yusupov.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);…………

ヴラーンゲリ将軍が石原将軍に敬礼した。それからユスポフの方に踵を返し、ゆっくりと進んで来る。赤軍から「黒男爵」と恐れられただけあって、武人としての気質は類まれだった。

&ref(ピョートル・ヴラーンゲリ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);公爵殿下……後でお話がありますので、財団研究所の方にお伺いしても?
&ref(MRUS Yusupov.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);……いま、ここでする話か
&ref(ピョートル・ヴラーンゲリ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);「政治的な問題」ではございません。単に、イギリスの連中が何をやらかし始めたかを協議しに。総督も望んでおられます

ユスポフは渋々肯くと、アンナの方に顔を向ける。彼女は目を丸めながら首を傾げて、二人の顔を交互に見ていた。

&ref(MRUS Yusupov.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);アンナ
&ref(アンナ2.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);?
&ref(MRUS Yusupov.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);これから僕たちは、男同士の話をするから……

力なく手を振ったユスポフは、ヴラーンゲリと共に研究所まで歩いて行った。アンナはひとり取り残された形となったが、日本軍将校が気を見計らったように歩み寄って来る。

&ref(青年将校.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);暇な間、小官が御伴します

武山が優しく外套をアンナに羽織らせる。だが、アンナはユスポフとヴラーンゲリの背中を見つめたまま動こうともしない。

&ref(アンナ2.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);私が何も知らないと思っているのだわ。……みんな
&ref(青年将校.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);…………

武山は何も言わず、アンナが動き出すまで不動の姿勢を保ち続けた。ユスポフとヴラーンゲリの背中が雪の中に消えていくのを見たアンナは、やがて武山に寄り添いながら歩き始める……。

&ref(アンナ2.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);わたくしも、バカでは無いのよ

アンナがか細く呟いたのを、武山大尉は聞かなかった事にした。誰にでも立ち行ってはいけない、領分と言うものがあるからだ。

***クレムリン 執務室 [#f5ecbc2b]

&ref(親方サヴィンコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);モズレーのバカめ、ウェストミンスターを「人民公会堂」に変えるらしい

サヴィンコフは、エマ・デーレンタールに「ノーヴォエ・ブレーミヤ(新時代)」を見せた。極右結社・黒百人組の機関誌で、ミハイル・ブルガーコフを中心とする実力派が著作・編集している。

&ref(エマ婦人.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);妙な話ばかりが聞こえてくるのよ。ボリス・ヴィクトーロヴィチ。ダウニング街にドラキュラが出たとか、たった一人に百五十人が殺されたとか喰われたとか……イギリスでよ? あの国は精神的な失調に襲われているわ
&ref(親方サヴィンコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);ドイツの血を受け入れた時からそうだ。これを見ろ、エルンスト・ロームが参謀総長になって、国防軍の大規模改編をやる……フランスじゃ機甲軍主義者の大改革を行われてるのに。ヨーロッパ中の血が濁っている
&ref(エマ婦人.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);純血主義のせいね
&ref(親方サヴィンコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);違いないな。化け物退治を口実にイギリス貴族も軒並み粛清されている。魔女狩りが終わったのは二百年以上も前だぞ? あいつらの精神は未来に思いを馳せつつ、やっている事は過去の焼き直しだ
&ref(エマ婦人.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);……おかしな女になった、と思わないで欲しいのだけど

エマ・デーレンタールが上目遣いでサヴィンコフを見た。

&ref(エマ婦人.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);ドラキュラの噂、本当らしいわ
&ref(親方サヴィンコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);……
&ref(エマ婦人.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);……
&ref(親方サヴィンコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);…………
&ref(エマ婦人.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);…………

サヴィンコフは手もみして、優しくエマに微笑んだ。

&ref(親方サヴィンコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);いい医者が居るから紹介……

エマは、報告書を机の上に放り投げた。サヴィンコフが速読すると、ヴァン・ヘルシング邸に若い男女が家畜のように集められた後、二度と戻ってこないと言う話が記載されている。

&ref(エマ婦人.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);イギリスの公式報道じゃないわ。バルフォア宣言を反故にされたユダヤ人たちの機関紙よ……
&ref(親方サヴィンコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);…………何だこりゃあ
&ref(エマ婦人.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);それから、ユダヤ人の協力者を組織してヘルシング邸の謎を探らせたの。軍用トラックが集められた人間を一週間後に駐屯地に送っている。全員目が赤くなっていて、中には腐ったような皮膚になった奴も居た
&ref(親方サヴィンコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);シェイクスピアのシャイロックをチャーチル氏と見た事があるので、私はユダヤ人に対する評価があまり高くない。あれは名作だからな……その上で考えても、ユダヤ人はカルトじみた話など信じないはずだ

エマの澄んだ瞳をサヴィンコフは直視し、それから黒電話に手を掛けた。

&ref(親方サヴィンコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);ピョートル・ニコラエヴィチか……あぁ私だ。いま公爵とご一緒かな? なら良い
&ref(親方サヴィンコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);ツァーリ・ボンバの資金なら任せろ。カネは湯水のごとく使って良い。どういう心境の変化だと?
&ref(親方サヴィンコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);敵は動き始めたのだ。ボルシェビキという病が死臭を撒き散らしながら、ペストのように欧州文明を破壊しようとしている

サヴィンコフはイスにもたれかかった。野心的な光を放つ目が何を見ているのかエマは知りたくなった。

&ref(親方サヴィンコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);後、「アッティラの場合」について協議したいので、終わり次第モスクワに飛んでくれ……フランスが動く前に、旧領を奪還するのだ

http://art1.photozou.jp/pub/867/3222867/photo/253826701.v1517605604.png

**フン族の兵士たち [#g4f0f4a1]

***ツァリーツィン [#ab3f516a]

サヴィンコフとヴラーンゲリが会談した一週間後、ロシア軍は遂に全ての旧領を恢復する一大作戦に打って出た。
既にフランス軍は動員を始め、カイザーのドイツ軍に対する猛攻を加えていたが、毒ガスやそれを大量に投下する航空機部隊の存在に進軍を阻まれている。

&ref(ピョートル・ヴラーンゲリ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);逆に言えば、ロシアにとって千載一遇の機会なのだが

ヴラーンゲリは、相手を背後から強襲する絶好の機会に躊躇すらしていた。何を隠そう国境付近の都市において、「独露戦争に反対」を訴える者たちが行動を起こしていた。
ただのデモやストライキでは無く、時として暗殺という強硬手段に訴えているため始末に負えない。

&ref(マルコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);報告によれば、爆弾テロのせいで将官がひとり病院送りになったとか
&ref(ドロズドフスキー.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);参りましたな……これでは作戦を実施に移したとて、兵站などに危害を加えられないとは限りません
&ref(マルコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);ロシアは軍備に繋がる重工業技術は豊富。だが医療技術に関しては中堅国家レベルだ。ドイツ軍が毒ガスのほかに細菌兵器を開発していたらパンデミックに陥る……
&ref(ピョートル・ヴラーンゲリ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);スペイン風邪のようなパンデミックが前線で起きたら、モスクワを守る壁は無い

三人は一様に腕を組んだ。脆弱と思われたカイザーのドイツとその諸邦は、実のところ機敏な動きで両面作戦の計画をしていた。
アレクサンドル・デーレンタールの報告書によれば、帝政ドイツは東方植民地支配のために秘密警察を作り、彼らに対外工作をも兼ねさせていると言う話だ。
内外の情報を用い敵を挫滅させる秘密戦の司令官はラインハルト・ハイドリヒと言い、バルトの内務大臣を務める一方でドイツの極右勢力とも昵懇と専らの噂だった。

&ref(ドロズドフスキー.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);ハイドリヒと言う男がうまく情報網を張り巡らしていますよ。総督にも引けを取らないテロルのネットワークをつなぎ、ロシア軍を見事に足止めしている。
&ref(マルコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);黒地に頭蓋骨の軍隊か、奴が率いるのは? アダムの頭蓋をトーテンコップだとか抜かしやがって、いけ好かないな。これだからドイツ人は……
&ref(ピョートル・ヴラーンゲリ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);いずれにせよ、奴を葬りベルリンへの征途を切り拓かねば――

ヴラーンゲリが瞑目したところで、陣幕の外が騒がしくなった。

&ref(NRPR戦闘団員.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);ど、どうなさったんです
&ref(カッペリ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);えぇい。どうもこうも無い……マルコフ、ドロズドフスキー将軍、ヴラーンゲリ議長!

戦闘団員を突き飛ばしたカッペリは、三将軍の軍議を中止させた。

&ref(マルコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);何があった!
&ref(カッペリ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);あぁ、済まん……実は、ミハイル・レビートフ将軍がこんな手紙を……


三人は立ち上がりカッペリの近くに集った。カッペリが開いた手紙はレビートフ直筆でこのように記されている。

&ref(レビートフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);&size(12){''拝啓、ウラジーミル・オスカロヴィチ様。ユデーニチ将軍の命に従い、ただいまバルト連合公国に潜伏しています''};
&ref(レビートフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);&size(12){''リガは良い場所です。海の幸を食べられるし、ドイツ語を学習するのにマレーネ・ディートリヒの音楽を聞けます。何よりハイドリヒが近くで見れるので、仕事が捗ります''};
&ref(レビートフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);&size(12){''奴はオープンカーに乗って市街地を巡察しています。勇敢さを演出して非ドイツ系住民の畏怖を煽ろうとしていますが、護衛が30秒おくれて車を出すので隙だらけです''};
&ref(レビートフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);&size(12){''故に私はロシア系の住民をかき集め、ハイドリヒを少しばかり驚かしてやろうと思います。ついでに言えばあの世に送り出して、師範たる貴方の手柄にしてやるつもりです……''};

&ref(カッペリ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);……追伸、九度目の傷を負ったら黄金のシャーシカを賜るよう、総督閣下にお伝えください
&ref(マルコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);&size(15){''貴様は部下にどんな教育をしておるか!''};
&ref(カッペリ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);面目ない
&ref(マルコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);えぇい、目も眩まんばかりだ。ハイドリヒにレビートフみたいな猪が挑む? 靴底にへばり付いた犬の糞みたいに、掴みどころがない男にか?

マルコフがふらついた足取りでイスに戻り、それから病人のような顔で背もたれにもたれかかった。これに対し、ヴラーンゲリは毅然と踵を返し、悠然と椅子に座る。

&ref(ドロズドフスキー.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);ウラジーミル・オスカロヴィチ。レビートフなる男は九度目の傷と書いてますね
&ref(カッペリ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);勇敢さでは軍中一です。どう猛と言い換えても良い。彼は八度の激戦で傷を負いながらも生き延び、不死身とすら謳われている
&ref(ドロズドフスキー.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);……面白いですね。彼の試みは成功するかも知れない
&ref(マルコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);お前まで何をバカな……
&ref(ドロズドフスキー.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);ハイドリヒの蛮勇は夙に知られています。彼はアフリカにおいても戦闘機に乗り、現地のパルチザンを空襲してカイザーから大目玉を食らっている
&ref(マルコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);命知らずに命知らずを宛がうのか? 正気ではない! 失敗すればプリバルティカに根を張ったロシア人コミュニティは壊滅する。戦争だって始められるか分からないんだぞ
&ref(ドロズドフスキー.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);フランスが落ちれば次に狙われるのはこの国です。その時ハイドリヒを残せば裏工作の波状攻撃を受け、モスクワ前面にドイツ軍が来るやも知れません
&ref(マルコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);だが……
&ref(ピョートル・ヴラーンゲリ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);もうよい

ヴラーンゲリが二人の論争を制した。

&ref(ピョートル・ヴラーンゲリ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);カッペリ将軍。ユデーニチ閣下にレビートフの越権を黙認するよう伝えよ
&ref(カッペリ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);……!
&ref(ピョートル・ヴラーンゲリ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);暗殺というごく初歩的なテロ戦術でも、効果的に使えば十万の兵に匹敵するだろう

***リガ [#ye54c810]

http://art5.photozou.jp/pub/867/3222867/photo/253856499.v1517735013.png

&ref(ツルクル.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);なぁ……ミハイル・ニコラエヴィチ
&ref(レビートフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);どうしたぁ?
&ref(ツルクル.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);リガ新聞の様子がおかしい。日を追うごとに戦況の報告が少なくなって、替わりに「盟邦の軍が勇敢に玉砕した」だの、「カイザー・ユーゲントの某准尉が偉い張り切ってる」だの、どうでも良いニュースばかりだ
&ref(レビートフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);ハイドリヒも最近妙だしな……もっと大胆になって、市民に銃の使い方を教えている。殺れるぜ、こりゃあ

アントーン・ツルクルは相棒にミハイル・レビートフを選んで後悔した。内戦中に受けた八回もの戦傷をものともせぬ男は、同時に部下の命をも顧みぬ野蛮な男でもあった。
コルニーロフ衝撃隊の中でも最右翼であるレビートフは、勝利の為なら陣頭に立ってシャーシカを振り回す事も、敵陣に入り込んで将軍を暗殺する事も同じ価値しか持たないらしい。

&ref(レビートフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);情報によればこの通りを通過する……向こう側にパルチザンを置いたから、後は俺が銃をぶっ放して、お前が爆弾を投擲するだけだ
&ref(ツルクル.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);ぺちゃくちゃ喋って大丈夫なのか?
&ref(レビートフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);いつここにもロシア軍が入り込んで来るか知らんのだ。勇気ある「愛国者」はケーニヒスベルクへ高飛びしてるさ

ツルクルは最もだと思った自分を恥ずかしさを覚えつつ、向こうのパルチザンが光を反射するのを見て戦慄した。

&ref(ツルクル.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);(奴が来る……!)

ツルクルの戦慄をよそに、レビートフは薄汚れたフロッグコートをまとい、左手にはウォッカを持って歩き出した。よちよち歩きのレビートフを止めるべくクラクションが鳴る。
レビートフがぼんやりした様子でクラクションの鳴った方を見ると、高い鼻立ちに細い目をした男が後部座席に乗る、メルセデス・ベンツを見つけた。
レビートフが不規則な行動を取る中、ツルクルは冷静だった。オープンカーの後ろに回り込み、道を通るフリをしながらレビートフと目を合わせる。手には水筒に隠した改造手投げ弾。
一方のレビートフは酔っ払いながらドイツ語で歌い続ける。

&ref(レビートフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);雷鳴は叫びの如く哮り狂う 剣戟の響きと波打つ衝撃の如く ラインへ ラインへ ドイツのラインへ 誰が大河の番人であるのか?

ハイドリヒが何かを察しレビートフを指さした。「撃て――」護衛がレビートフをハチの巣にする前に、ツルクルは車と地面の間に投擲弾を滑り込ませる。
レビートフは銃を向けられたのとほぼ同時期に後ろへとすっ飛び、ツルクルが横断歩道を渡り終えた直後、耳をつんざくような爆音が鳴り響いた。

&ref(ハイドリヒ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);Scheiße――!

ハイドリヒは背を向けたツルクルに何度も拳銃を発射した。護衛も機関銃をぶっ放し始める中、ツルクルは身軽さと健脚で身を隠す。レビートフはどうなったか……もしかして死んだのか?
ツルクルが隠れて十字を切っている中、レビートフはうつぶせになりながら目を見開いた。ドイツ語で何度も罵倒の言葉が聞こえて来る。しかし彼らは自分が単なる酔っ払いとしか思っていない。
レビートフは音も無く立ち上がった。手には装填した拳銃がある。ゆっくり懐から出し、脇腹から血を流すハイドリヒに狙いを付けつつ、手鏡で再度シグナルを発した。

&ref(レビートフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);さよならバルトのトリスタン。夢の中でまた会おう

四方八方から銃声が響く中、レビートフはハイドリヒの背中に、銃弾を一発だけ叩き込んだ。

-----

http://art1.photozou.jp/pub/867/3222867/photo/253859467.v1517737875.png

白い津波は、瞬く間にドイツの衛星国を呑み込んで行った。マルコフ・プランによって誕生したロシア機甲軍は、イベリットやホスゲンに頼るドイツ軍の常套戦術を粉砕して、易々と旧領を奪還した。
ラインハルト・ハイドリヒが組織する「アーネンエルベ」や「オデッサ」などと言った秘密組織は、ハイドリヒと言う頭脳が永遠に失われた事で機能不全に陥った。彼の死後、サヴィンコフがアンネンコフに徹底的な鎮圧を行わせたからだ。
更にサヴィンコフはデーレンタールに対し生き残ったドイツ軍エージェントにダブルスパイをさせる「スペクタクル」計画を実施し、ケーニヒスベルクに放って戦況の撹乱を試みた。

http://art1.photozou.jp/pub/867/3222867/photo/253859473.v1517738572.png

ドイツ軍から支援を受けられなかったウクライナと白ロシアはロシアに併合され、二度と二つの国家が再建されぬ措置が取られた。ロシアに対する強制同化によって、かの地をノヴォロシアにするのだ。
サヴィンコフはミハイル・ブルガーコフ((ウクライナ出身。「白衛軍」や「犬の心臓」で有名。この世界では白衛軍が勝利した為、ショーロホフの替わりにロシア第一の文豪になっているだろう))やセルゲイ・エイゼンステイン((バルト出身。「戦艦ポチョムキン」や「十月」を撮影。後期は歴史映画を中心に発表したが、「イワン雷帝」がスターリンの指示で上映を禁止され、三部作の予定が二部作になってしまった))と言った芸術家に「新スラヴ主義」を唱えさせ、反発する各種思想団体には漏れなくアンネンコフの戦闘団を派遣。
ボリス・アンネンコフの軍隊は「オプリーチニキ」と称され、恐れられる事となる。
いずれにせよロシアの旧領奪回によって、帝政ドイツの命運はほぼ決まったも同然だった。

***ケーニヒスベルク [#jf24dc36]

http://art1.photozou.jp/pub/867/3222867/photo/253886346_624.v1517828613.png

&size(15){''雷鳴は叫びの如く哮り狂う 剣戟の響きと波打つ衝撃の如く''};
&size(15){''ラインへ ラインへ ドイツのラインへ 誰が大河の番人であるのか?''};

&ref(マンシュタイン.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);なぁ……ハインツよ
&ref(グデーリアン.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);何だ、エーリヒ
&ref(マンシュタイン.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);ドイツの軍隊は、いつからボーイソプラノの聖歌隊に変わったんだ?
&ref(グデーリアン.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);大方あのロームの指示だろう。残念だが、プロイセンの白手袋は上官を手に掛けない

およそ14から19の少年たちが鉄兜を被り、甲高い声で「ラインの守り」を歌う情景をマンシュタインたちは乾いた瞳で見つめていた。既に東プロイセンは包囲され、上空には日露両空軍が轟音を響かせている。
彼らの計算によれば、ロシア軍の攻勢はもうすぐ始まるはずだ。

&ref(マンシュタイン.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);お前の「電撃戦」がカイザーに却下されなかったら、ロシアに勝利できたかね?
&ref(グデーリアン.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);仮定の歴史など知らん。「フューラーライヒ((HOI4版のKRイベントに出て来る架空戦記))」は好きじゃないからね……だが、我々の指導者はファンタジーよりも懐古的だった
&ref(マンシュタイン.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);デンマークを抜けドイツに帰る事もままならんしな。スウェーデンやノルウェーが、サンディカリストの手に落ちた今となっては……

マンシュタインが、突撃隊の将官と目を合わせた。病的に肥えた将官はかつてマンシュタインたちを顎で使っていたが、今や自分の慧眼が狂っていた事を自覚しているせいか、マンシュタインから逃げるように目を逸らす。

&ref(グデーリアン.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);精々戦車部隊さえあればな。だが、今となっては手遅れだ

爆音が遠方から響いた。ロシア人のУраと叫ぶ声が地響きのように聞こえる。突撃隊将官はヒステリックに敵を罵る事で少年兵たちを鼓舞していたが、身震いのせいで却って少年たちを不安に陥れた。

&ref(マンシュタイン.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);将官殿。私は貴方に進言したい事が……

マンシュタインが見かねて手を挙げた。それから将官と口論し、少年兵たちを指し示す。将官は屈辱に耐えがたい顔で彼の話を聞いていたが、やがて肯いた後、車に乗っていずこかへ消えた。

&ref(マンシュタイン.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);諸君! 東プロイセン突撃隊のモーリス将軍は、今日付けでカイザーを親衛する為この地を離れる
&ref(グデーリアン.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);……?
&ref(マンシュタイン.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);替わりに私、エーリヒ・フォン・マンシュタインが諸君の指揮を執り、必ずこの重囲から逃れる事を約束する
&ref(グデーリアン.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);(バカ。突撃隊のスパイがいるかも知れんのに……)

グデーリアンは立ち上がったものの、マンシュタインの強い眼光を見て座り直した。グデーリアンは、マンシュタインの鋭い目付きに強い意志を感じ取った。

&ref(マンシュタイン.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);私は、諸君に如何なる名誉も栄光も約束できない。既にロシア軍はヴィスワ川を越えワルシャワを制した。彼らは旧領を奪還し、じきタンネンベルクの報復も果たすに違いない
&ref(マンシュタイン.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);その事を私が包み隠さないのは、偽りなき愛国心で祖国の敗北と破滅の運命を自覚し、以て次世代に勝利の種を渡す為だ。その種は戦車や軍用機で無く、ゲーテとベートーヴェンによる勝利で無ければならぬ
&ref(マンシュタイン.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);これより我々はケーニヒスベルクに籠城し、しかるのち輸送船を商船などに偽装し、ドイツ人を多く助けるつもりだ。諸君に無理強いはせぬが、出来るだけ多くのドイツ人が、その子孫が生き永らえる事を望む

マンシュタインは言葉を切り、少年たちをじっと見た。青い瞳が揺れ、戦慄き、やがて一人の子供が鼻をすすった事をキッカケに、少年たちが方々で涙するのに深く肯いた。

&ref(グデーリアン.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);(そうだわな……負けたからと言って、軍人が責務を捨てる訳にも行かんな)
&ref(グデーリアン.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);泣くな、坊主ども! 俺やマンシュタイン将軍が居るのだから、案ずる事はない
&ref(グデーリアン.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);今年の冬はシュトゥルゥーデやシュトーレンも無いだろうから、ファーターやムッターに思い切り甘えろ! ……お前たちは少なくとも、神の名の下に祝福されて生まれて来たのだ
&ref(グデーリアン.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);今年の冬はシュトゥルゥーデルやシュトーレンも無いだろうから、ファーターやムッターに思い切り甘えろ! ……お前たちは少なくとも、神の名の下に祝福されて生まれて来たのだ

-----

&ref(ドロズドフスキー.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);…………
&ref(カッペリ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);ドロズドフスキー将軍。検死させたところ、エーリヒ・フォン・マンシュタインは自裁したようです。偽装した輸送船団が日露空軍の爆撃を逃れた報告を受け、役割を果たしたと考えたのでしょう
&ref(ドロズドフスキー.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);ウラジーミル・オスカロヴィチ
&ref(カッペリ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);?
&ref(ドロズドフスキー.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);フォン・マンシュタインの死は後世に語り継がれるだろう。彼はドイツの罪を背負い未来の為に全てを許したと……だがそれは違うのではないか?
&ref(ドロズドフスキー.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);彼は紳士であり、武人であった。にもかかわらずここで時代のあだ花として散る事を許した戦争という殺戮は、彼のような人士を百人殺しても終わるまい
&ref(カッペリ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);小官にその質問はご容赦ください……いま、私はこの地に足を踏み入れたことを、一種の恥辱とすら考えているのです
&ref(ドロズドフスキー.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);……この戦争を描写するのは、トルストイすら匙を投げるだろう。何故ならこれは「第二次大祖国戦争」などと言う代物じゃない。手あたり次第の八つ当たり、子供じみた復讐だ
&ref(ドロズドフスキー.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);我々は今、化け物すら霞む地獄の中に生きているのだろうか?

http://art1.photozou.jp/pub/867/3222867/photo/253886350_624.v1517828619.png

[[【KRロシア】黒馬を見たり/1940年 タタールの軛]]に進む
[[【KRロシア】黒馬を見たり]]に飛ぶ
TIME:"2018-02-06 (火) 20:13:36"

トップ   編集 差分 バックアップ 添付 複製 名前変更 リロード   新規 一覧 単語検索 最終更新   ヘルプ   最終更新のRSS