#contents

*愛国者たち [#w3b6f424]

**インテルメッツォ [#m1c78e31]

***モスクワ クレムリン [#ia453dee]

ボリス・ヴィクトーロヴィチ・サヴィンコフは、勝利に湧く群衆の中で疲れ切った表情をしていた。アンナ・アンダースンが止めるにもかかわらずウォッカの消費が増え、執務室で転寝する事も増えている。

&ref(親方サヴィンコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);……
&ref(ウラジーミル・レーニン (WW1).png,[[閣僚画像置き場]],nolink);いい気なものだな。革命の成果を横取りし、ツァーの玉座を盗み取るとは。ベーヴェ((БВ、サヴィンコフの綽名。レーニン全集に登場))

ここ最近、サヴィンコフはレーニンの亡霊が夢枕に出て来るので悩まされていた。彼が近付くと必ず血の臭いが鼻腔を刺激し、目から覚めて顔を洗うと自分の死相が出て来る。
そして死相は、高台から飛び降りた亡骸のように脳漿がはみ出し、目が片方飛び出していた。

&ref(親方サヴィンコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);またお前か。ウラジーミル・イリイチ
&ref(ウラジーミル・レーニン (WW1).png,[[閣僚画像置き場]],nolink);冥府から貴様のやり方を見ているのだ。上手くやるじゃないか。我がブハーリンは貴様の収容所でリンチされ、妻は粗末な食事のせいで中毒を起こし死んだ
&ref(親方サヴィンコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);確かにお前よりは苦しかったろう。お前の場合、カプランに三つお年玉を食らったんだからな

サヴィンコフは目をつむり、机に突っ伏している。幻覚との対話に気が休まる時は無いが、数々のテロルを達成してきた彼にとって、死への誘惑に耐える事は朝飯前だった。

&ref(親方サヴィンコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);1902年に私が論文を書いた時、お前は随分と私をこき下ろしたな
&ref(ウラジーミル・レーニン (WW1).png,[[閣僚画像置き場]],nolink);「革命はエリートが善導するものであり、彼らは諸組織を統率する鉄の規律を持った前衛でなければならない」狂った論理だ。誰も彼もが貴様のテロルを真似た
&ref(ウラジーミル・レーニン (WW1).png,[[閣僚画像置き場]],nolink);私ですらブロンシュテイン((トロツキー))に命じ片っぱしから人間を殺さなければならなかった。さもなくばお前の「細胞」が、より早く私の首筋に匕首を突き立てたに違いない
&ref(親方サヴィンコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);サボタージュやクーデターを試みた奴が良く言うものだ。しかし、私の理論は正しかったろう?
&ref(親方サヴィンコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);民衆は気まぐれだ。対馬の惨劇((日本海海戦))を十年で忘れ、あの大戦から二十年でツァーの新生を祝っている
&ref(親方サヴィンコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);愚かで、気まぐれで、しかし征服されざるひたむきさにこそ、民衆の価値があるのだ。貴様らはそれをヨーロッパ的なえせ科学で支配しようとして、しっぺ返しを食らった
&ref(ウラジーミル・レーニン (WW1).png,[[閣僚画像置き場]],nolink);その征服されざる民衆と共に、お前はどこに行く? ハーメルンか?
&ref(親方サヴィンコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);私はアッティラのように粗野でも無ければ、シャルルマーニュの如く軟弱でも無い。私はВожд(ヴォーシチ)だ。華の都から時計塔まで、双頭鷲の聳えるところに変えてやる

レーニンは、しばらく何も言わなかった。何も言わずにサヴィンコフを凝視し、やがて厳かに笑う。

&ref(ウラジーミル・レーニン (WW1).png,[[閣僚画像置き場]],nolink);お前が一夜を共にした、女の亡骸を凌辱する奴らと一緒に、か?

サヴィンコフは女の色香が死臭と共に漂うのを嗅覚で知った。顔をあげると、そこには見覚えのある顔。

&ref(スピリドーノワ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);

最後に見たのは、縦に切開された臍を晒し、潰れた左目から血の涙を流しているスピリドーノワの姿だった。

&ref(親方サヴィンコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);マリア……!

**双頭鷲は海峡へ [#w5afbef9]

&ref(アンナ2.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);……あら

サヴィンコフは目を覚ました。彼の前にはアンナ・アンダースンが立っていて、両手には熱いビーフストロガノフを持っている。

&ref(アンナ2.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);お目覚めかしら? 執務室で寝ていると戦闘団の方から聞いたので、持って来ましたの
&ref(親方サヴィンコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);あぁ……済まんな。総督になったから仕事が多くてね
&ref(アンナ2.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);大統領職と首相職を兼任しているのです。当然ですわ

アンナはビーフストロガノフを置いた後、イスを持って来てサヴィンコフの前に座った。

&ref(アンナ2.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);あと、私はマリアでは無くてアンナよ?
&ref(親方サヴィンコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);ラジオを付けてくれ。トルコ戦線の事が気がかりだ
&ref(アンナ2.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);はいはい

アンナはラジオの周波数を国営放送に合わせようとして、サヴィンコフに止められた。

&ref(親方サヴィンコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);BBCか帝国放送に回してくれ
&ref(アンナ2.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);ロンドンかベルリンに?
&ref(親方サヴィンコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);奴らが我々をどう見ているか、知りたい

アンナが手始めに帝国放送に周波数を合わせると、お決まりの調子でヨーゼフ・ゲッベルスが雄弁を振るっている。

&ref(ゲッベルス2.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);しかし考えてみればですよ。ロシアの横暴に対し抵抗できないオスマン帝国の怠慢にこそ、世界情勢の問題がアイロニックに表現されていると思うのです
&ref(ゲッベルス2.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);どのような正義にも、偉大なる指導者とイデオロギーが存在しなければならない。ロシアは、サヴィンコフと国家人民主義によって不死鳥の如き復活を遂げた
&ref(ゲッベルス2.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);しかしトルコ人のあの蒙昧さは、傑出した指導者を生み出し、権力を握らせる土台が存在しません。彼らに出来る事は遺産に縋り、敬虔な素振りで神の教えを冒涜する事のみです
&ref(アンナ2.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);この人の喋り方、嫌い
&ref(親方サヴィンコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);だが、我々の有用性は把握しているようだ。ドイツ人の小利口さにはいつも助けられるな、その賢さでロシアに利益をもたらしてくれるのだから……

サヴィンコフは次を回せとアンナに言った。ドイツの放送は既にロシアの勝利を見越しているようだが、肝心の戦局にはフォーカスが当てられていない……アンナはBBCに周波数を合わせる。
BBCはいつものように、「ブリタニアは汝の為に」を流している。

&ref(UOB歌手.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);強大さ! 賢さ! 勇敢さ! 平和! 全世界を得るための闘争を戦い続ける……
&ref(親方サヴィンコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);ヴェラ・リンか。「モズレーの恋人」も良くやってるよ

全体主義に冒されたブリテン連合の国歌は、国家の偉大さとモズレーへの忠誠を流麗な調子の音楽で表現した後、重大放送をアナウンスした。

&ref(名無し.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);今晩は、偉大なる人民の同志モズレーが、革命の先達として世界人民から敬愛され続ける、もう一人の偉大なる同志をこのスタジオに招いております

神妙な様子をサヴィンコフは訝しく思い、アンナにラジオの音量をあげさせた。彼がそれを後悔する事になるのはすぐの話だ。

&ref(名無し.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);……サヴィンコフとその手先たちのばかげた下劣な中傷を、ここでもう一度反駁する必要はない。私の革命的名誉には一点の曇りもない

アンナが戦慄き始めた。サヴィンコフは目を見開き、ラジオを注視したまま微動だにしなくなっている。

&ref(トロツキー.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);私の革命的名誉には一点の曇りもない。私は直接的にも間接的にも、労働者階級の敵と、どんな舞台裏での協定もしたことはないし、交渉したことさえない
&ref(トロツキー.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);彼らはウラジーミル・イリイチ・レーニンと、その同志たちがカイザーと取引してロシアを支配しようとしたと言う矮小なプロパガンダを喧伝した
&ref(トロツキー.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);しかし今やどうだろうか? ロシアはアルメニア国境を越えアナトリアに攻め入り、目下イスタンブールを守る最後の海峡を越え、旧時代の遺物ごと世界の平和を砕こうとしている
&ref(トロツキー.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);そしてそれを知るカイザーは、ロシアの横暴をウクライナ農耕地帯における徴収権と引き換えにし、人民を再び奈落の底に追いやろうと企んでいるのだ!
&ref(トロツキー.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);同志諸君はもはやつるはしやハンマーでは無く、銃と砲弾をもってヨーロッパ革命に当たらねばならない! あの大戦が再び起き、モスクワかベルリンで凱歌が木霊する時、次はパリやロンドンが狙われるだろう!
&ref(トロツキー.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);革命の前衛には一秒の油断も無く、世界人民の革命的幸福と、基本的人権の名の下に行動する義務、権利を有するのだ

トロツキーの演説が終わると、「レーフ! レーフ!」と言う掛け声が起こった。行方不明だったトロツキーがイギリスを訪れ演説したのだから当然だ……サヴィンコフがアンナに目を向けた。
彼女は唇を震わせ、死人のように蒼ざめていた。

&ref(アンナ2.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);アレク……

アンナが音を立てて崩れ落ちた。すかさずやって来たエマ・デーレンタールに対し、サヴィンコフが緩慢なく命ずる。

&ref(エマ婦人.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);ベーヴェ……
&ref(親方サヴィンコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);医務室へ連れていけ!

エマ婦人はアンナを抱え執務室を出た。サヴィンコフは思い切りラジオを床に叩き落し、苛立ち紛れに銃で壊す。そしてそれから、レーニンの幻覚が佇み微笑んでいるのを認めた。

&ref(ウラジーミル・レーニン (WW1).png,[[閣僚画像置き場]],nolink);これが征服されざる、民衆の力と言うものだ

レーニンのほくそ笑むサマはサヴィンコフの神経を逆なでした。が、硝煙の匂いを嗅いだサヴィンコフはむしろイスに座り直し、程よく冷めたビーフストロガノフを平らげた。
水を呷ったサヴィンコフは、むしろ炯々としたいつもの顔に不敵な笑みを浮かべている。

&ref(親方サヴィンコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);ちょうどよかった……

訝しむレーニンをよそに、サヴィンコフはイスにもたれかかった。

&ref(親方サヴィンコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);歴史の掃き溜めにスペースがあったんだ。ボディバック一袋分のな

サヴィンコフは黒電話を回し始めた。レーニンの幻覚はもうどこにも居ない。

&ref(親方サヴィンコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);デーレンタールか。あぁ私だ……コンスタンティノーポリに近い軍司令官につないでくれ。トロツキーを少しばかり仰天させてやろう

***ダータルネス海峡 [#te82a609]

http://art29.photozou.jp/pub/867/3222867/photo/253680946.v1516832695.png

&ref(アンネンコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);はい! こちらボリス・ウラジーミロヴィチ……何だ、総督(ヴォーシチ)か!
&ref(親方サヴィンコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);君に会うとは奇遇だな。ボリス・ウラジーミロヴィチ。フォン・カッペリの方が出ると思ったが
&ref(アンネンコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);あれならイェルサレムの方に向かっておりますよ、やけに張りきっちゃってね
&ref(親方サヴィンコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);あれは信心深いからね……ところで一つ聞きたいのだが。戦局は?
&ref(アンネンコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);渡渉中ですな! オスマン帝国の連中、大戦が終わった直後の装備しか持ってねぇ。ポーランド人のケツでも叩いてりゃ落ちますよ!
&ref(親方サヴィンコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);それは結構……ところで君はイスタンブールがコンスタンティノーポリだった事を知ってるかね?

アンネンコフはしばし口を閉ざし、それからわざとらしく手を打った。近くで炸裂する砲弾の勢いは弱く、アンネンコフを倒すには至らない。

&ref(アンネンコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);元はロシア人の土地なんでしょう? コンスタンティノーポリは
&ref(親方サヴィンコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);フ……ともかくだ。君にはこれから重大な任務が与えられる。広報は好きか?
&ref(アンネンコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);プロマイドが大好きなんですよ、自分のね! ……あ、戦闘が終わった

http://art29.photozou.jp/pub/867/3222867/photo/253561566.v1516222755.png

&ref(親方サヴィンコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);なら、君たちが先にコンスタンティノーポリに入りたまえ
&ref(アンネンコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);あ?
&ref(親方サヴィンコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);ロンドンの連中が面白い見世物を見せてくれたのだ……お返ししようと思ってな

-----

http://art13.photozou.jp/pub/867/3222867/photo/253680949.v1516832710.png

イスタンブールは、瞬く間にロシア軍の手に落ちた。彼らは圧倒的な機動力と攻撃によってオスマン軍のラクダ騎兵を木っ端みじんに打ち砕き、その主力をガリポリで包囲する事に成功する。

http://art21.photozou.jp/pub/867/3222867/photo/253680945.v1516832688.png

当初は抵抗を続けたガリポリ軍も、ウラジーミル・カッペリがイェルサレムを戦車で踏破した時その戦意を失った。彼らの中にはイスラム教徒だけでなく、キリスト教徒やユダヤ教徒も少々混じっていた。
これらが共通の大義としたイェルサレムが失陥し、ロシア軍の凱旋が報じられたとたんオスマン帝国は軍も政府も機能しなくなった。

http://art13.photozou.jp/pub/867/3222867/photo/253681026.v1516834015.png

4月、オスマン帝国の皇帝はサヴィンコフに親書を出し、無条件降伏する事を伝えた。
多くの貴族たちがガリポリの硝煙に消えた後、もはや瀕死の病人が臨終の期に入った事を悟った皇帝は、乾いた笑いを浮かべたまま動かずに居たと言う。
これとは対照的に、モスクワは大勝利に湧いた。古よりロシアを苦しめたオスマン帝国は既にこの世に無く、サヴィンコフと戦闘団、栄誉ある白衛軍の新生ロシアが世界の表舞台に立つときが来た。

http://art29.photozou.jp/pub/867/3222867/photo/253681022.v1516833856.png

&ref(マルコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);確かに。私もトルコ征服は承認したつもりですが……本当にこれでよろしいので?
&ref(親方サヴィンコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);あぁ。トロツキーがインターナショナルを盤石なものにした以上、我々には悠久の大義、革命を児戯に貶める崇高なる伝統が必要だ

&ref(親方サヴィンコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);旧世界のイスタンブールは、新世界のツァーリグラードに替わらねばならないのだから……

**亡霊たちの目覚め [#k646eb83]

http://art13.photozou.jp/pub/867/3222867/photo/253680944.v1516832681.png

 第一、第二のローマは潰えた。第三のローマはモスクワである! 第四は有り得ない!
 ―――イヴァン雷帝

***モスクワ [#se06f1f5]

およそモスクワを中心とするロシアにとって、ローマの名は彼の地を華やかに飾り立てる尊称だった。
聖公ウラジーミルによる建国からビザンツ帝国の血縁と婚姻で結び付いたモスクワ大公国に至ると、ビザンツの血と交わったロシアのツァーリたちはモスクワこそが正当なるローマの後継者と喧伝。
近代にもなるとロシアのツァーリが「皇帝」と西欧諸国から認められるに至る。

&ref(親方サヴィンコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);そして、此度のツァーリグラード奪還は、民衆を我々に引き寄せる巨大な磁石となるだろう

http://art5.photozou.jp/pub/867/3222867/photo/253693580.v1516918359.jpg

サヴィンコフの予想は的中した。アレクサンドル・デーレンタールが使嗾されるまでも無く、黒百人組((ロシアの極右組織))が一斉に街頭を行進し、「民衆のツァーリに万歳」を訴えた。
彼らはサヴィンコフから度々指示を受け、レーニンの集会を襲ったりボルシェビキに対するテロ計画を実践する手助けをして、サヴィンコフ率いるロシア国民党の母胎にすらなっていた。

http://art5.photozou.jp/pub/867/3222867/photo/253693605.v1516918638.png

彼らはロシア国民党の旗でなく独自の旗を掲げた。ロマノフ家による黒・金・白の旗をモチーフに、ロシア軍が最高勲章とする「黄金の剣」と、信仰の証たる「キリストの荊」を重ねたものである。
彼らはロシア少年軍に守られながら、ロシアの敵に対する呪詛を並べ、また強大な祖国を取り戻したサヴィンコフの肖像がを歴代ツァーリと並べ行進した。

&ref(ピョートル・ヴラーンゲリ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);ボリス・ゴドゥノフとオプリーチニキを思い出すな。簒奪者にそれを支持するならず者集団だ

ピョートル・ヴラーンゲリは、黒百人組の壮大な行進を苦い顔で見ていた。彼らはロシア軍の偉大な父コルニーロフの遺訓を忘れ、神聖かつ不可侵な赤の広場を黒い土足で汚した。
故にヴラーンゲリは親近の将校とグループを作り、サヴィンコフ体制の打破を秘かに画策している。が、ロシアが誤った道を行く時、須らく急進的なやり方で物事を変えるほど愚かでも無かった。

&ref(ピョートル・ヴラーンゲリ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);ありがとう。車はここで降りる……おい、そこの君
&ref(NRPR戦闘団員.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);……!
&ref(ピョートル・ヴラーンゲリ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);総督にお会いしたいのだが、よろしいかね

戦闘団員は口ごもった。

&ref(NRPR戦闘団員.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);その……総督は
&ref(ピョートル・ヴラーンゲリ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);これほどの警戒線を敷いているのだ。どうせクレムリンに居るだろうと思った。違ったかね?
&ref(NRPR戦闘団員.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);総督は今、重要な会議中で
&ref(ピョートル・ヴラーンゲリ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);ロシア全将兵連合(РОВС)議長を除いて会議かね? マルコフ将軍は英傑に違いないが、私ほどの地位には無い。通してもらう

***クレムリン 最高枢密院会議室 [#c20277eb]

一方サヴィンコフたちは、オスマン戦後の処理に動いていた。イスタンブールの呼び名をツァーリグラードに替えた彼らは、残りの領地における統治体制をどのように整えるか悩みあぐねていた。

&ref(デーレンタール.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);いっそのこと、細々とした零細国家を作って中東を分割すれば良いのでは?

最初に切り出したのはデーレンタールである。彼はシリアやパレスチナ、イラクやクウェートと言った国名を並べ立て、中東諸国の調停者としてロシアが君臨する案を示した。
РПКの情報将校を従えるデーレンタールは、かつてクバーニ=コサックの分断を担当し、ついでジハーディストとグルジアのメンシェビキを仲違いさせた。
彼の実績をすれば、イスラム教徒同士の仲違いなど容易いと考えても責める事は出来なかった。

&ref(マルコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);有り得んな。有り得ん……ムハンマドの顔が描いてあるか無いかで殺しまでやる奴らの調停? ナンセンスだ……

これに反対したのはマルコフだ。彼は日露戦争から現在に至るまで最前線を経験している。更に地政学を知る彼は、中東諸国がイスラムの対立だけで語れる代物で無い事に気付いていた。

&ref(マルコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);ましてやあそこにはユダヤ人もいる。連中をアラブ人の下位に置く訳には行かない。置けば束になってロシアの新秩序を破壊しようと試みて来るぞ
&ref(デーレンタール.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);しかし、連中はドイツの迫害を恐れて、ロシアから日本に行ってサハリン特別居住区に移住している。連中にはその切符を与え、日本人に恩を売れば……
&ref(マルコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);気狂い男爵が居るシベリア鉄道を通してか? あの偉大なバーバリアンがラスコーリニコフ顔負けの急展開で人道主義に目覚めると?
&ref(ロマン・ウンゲルン.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);俺はジンギス=ハーンだ。誰が何と言おうとジンギス=ハーンなんだ
&ref(マルコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);などと口走って、部下に鎮静剤を投与されるドン=キホーテが? 

デーレンタールは口を閉ざした。宗教対立から部族の権力争いまでを内包していたオスマン帝国の死は、即ちロシアの国庫に中東支配の負担が降り注ぐ事を意味している。
サヴィンコフが瞑目する中、マルコフやデーレンタールを以てしても誰も良い案を出せなかった。ドロズドフスキーは中央アジア征服計画の立案に忙殺され、フォン・カッペリはイェルサレムのもめ事を仲裁し続けている。
アンネンコフに至ってはアラブ人娼婦を「口淫する時にフェイスベールを被ってなかった」為に射殺しており、とても会議に出せる人間では無い。

&ref(親方サヴィンコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);(何か妙案は無いものか……)

サヴィンコフが腕を組んだ時、扉が開く音がした。全員が音のした方を向くと、黒いコサック服をまとった男が口ひげを撫でている。

&ref(マルコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);ヴラーンゲリ議長……

マルコフの言葉を合図に、ヴラーンゲリは円卓の末席に座った。

&ref(ピョートル・ヴラーンゲリ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);円卓の上は混沌としておりますな。まるでいつぞやのペトログラードみたいだ
&ref(親方サヴィンコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);君を最高枢密院に呼んだ覚えは無いのだが
&ref(ピョートル・ヴラーンゲリ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);貴方の座る席はコルニーロフ将軍のものでしょう。彼がそこに座った事が一度でもありましたかな?

サヴィンコフは眉間にしわを寄せる。

&ref(ピョートル・ヴラーンゲリ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);土台からしてこの乱世なのだから、上下や格式にこだわる必要はございますまい
&ref(デーレンタール.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);しかし、新たなる秩序が築かれつつある以上、新ロシアには総督を中核とする規範が必要である。君のような反骨精神が誉めそやされたのは……
&ref(ピョートル・ヴラーンゲリ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);モスクワでは無くツァリーツィンを落とし、東西の白衛軍が合流した時、ですか?

マルコフが吹き出しそうになり、デーレンタールから睨みつけられた……ピョートル・ヴラーンゲリは、アントン・デニーキンがモスクワへの行進を提案した時、ただ一人これに反対した男だ。
当時の幕僚にはコルニーロフのほかにも、ミハイル・アレクセーエフやアレクセイ・カレジンなどと言った名将が綺羅星の如く揃っていたが、彼はその中でツァリーツィンへの進軍とコルチャークとの合流を訴えた。
結果はツァリーツィン陥落と「ウファ会議」に結実し、三方向から締め付けられたボルシェビキ政権は、トロツキーのアジテーションも空しく崩壊したのだった。

&ref(ピョートル・ヴラーンゲリ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);総督には一つ、小官からご忠告いたしたい由がございます。小官が一介の将軍だった時、貴方はフォン・カッペリの幕僚に過ぎませんでした
&ref(ピョートル・ヴラーンゲリ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);にもかかわらず小官は民衆の理性と良心を信じ、ツァリーツィンに目を向けつつタンボフの市民軍に武器を援助する事をコルニーロフ将軍に建言したのでございます
&ref(親方サヴィンコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);……何が言いたい
&ref(ピョートル・ヴラーンゲリ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);古の名君は、須らく剣を振るう時は勇壮である一方、文治においては文武百官の声を聞きました。民衆に模範を示すには、まず自身が血と汗を流し、かつ寡欲である事が前提です
&ref(ピョートル・ヴラーンゲリ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);ここにはРОВСに所属する、武官による署名がございます。各々が皆、例え後方に居ようと生命を賭してロシアに尽くそうとする愛国者です

デーレンタールが口を開こうとするのをサヴィンコフが制する。

&ref(親方サヴィンコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);最もである。ただし一つ修正するならば、過去の君と私の階級が問題なのではない。将軍が金モールを剥がし、また逆に一介の匹夫が王侯を騙ってでも倒さねばならぬ民衆の敵が存在する事だ
&ref(親方サヴィンコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);科学を称した野蛮な選別を唱える共産主義や、涜神を厭わず信仰を守ろうとする頑迷な原理主義は、クレムリンより先、万里に広がる豊かなロシアの敵である……この点について同意するかね?
&ref(ピョートル・ヴラーンゲリ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);Да
&ref(親方サヴィンコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);我々はそれを議論し、遍く賢人や将帥に至るまで意見を求めるつもりであった……ちょうど良いので聞くが、ピョートル・ニコラエヴィチ。君なら、このゴルディアスの結び目をどう切る

ヴラーンゲリは、差し出された中東の地図を見た。勝ち誇ったようなデーレンタール。そして彼の目をじっと見るマルコフなど気にも掛けず、ヴラーンゲリはアナトリア以外のオスマン旧領をグルリ、と囲った。

&ref(ピョートル・ヴラーンゲリ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);小官が総督に求めるのは

円の中央に「アラブ連邦」と書かれた図面国家が誕生すると、デーレンタールもマルコフも、身を乗り出してそれを凝視した。

&ref(ピョートル・ヴラーンゲリ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);アレクサンダー大帝の無謀さでなく、カルタゴの滅亡に国家の悲哀を見たスキピオ将軍の熟慮でございます

http://art21.photozou.jp/pub/867/3222867/photo/253680943.v1516832675.png

**鉄騎兵東へ [#b73f1ad4]

***アストラハン 封印列車 [#t7b9ec7e]

http://art5.photozou.jp/pub/867/3222867/photo/253706132.v1517003267.png

&ref(名無し.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);ロシアの総督ってのも、あんがい悪い男じゃ無いな

ヘブライ語で囁く人々は、心なしか安堵したトーンで喋った。

&ref(名無し2.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);日本の特区まで装甲列車で送ってくれるんですものね
&ref(名無し.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);ソレリアンやシュトラッサーや、モズレーみたいなことをやらかすのかと思ったのに……
&ref(名無し2.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);ユダヤ人を助けてくれた

サヴィンコフはヴラーンゲリを交えた最高枢密院会議後、ツァーリグラードとその周辺に「総督府」を置き、残る支配地をトルコと汎アラブ連邦に分割させた。
この決定を主導したのは意外にもРОВСだった。彼らはコルニーロフ死後、サヴィンコフ止黒百人組が国政を横断する事態を避けるべく、「献身的な態度」でロシアの政治的均衡を取り戻そうと試みる。
その成果がイェルサレムのユダヤ人移送であり、彼らの封印列車はシベリア死のキャンプを抜け、豊沃な満州及び樺太に新住居を構える手はずだった。

&ref(アンネのオヤジ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);一時はどうなるかと思ったが……雨降って地固まるか

オットー・フランクは六芒星のお守りを握りしめた。シオンの地を追い出されて以来、ユダヤ人はディアスポラを繰り返し、来る日も来る日もヤハウェの再臨を待ち望んだ。
しかし、オットーは再臨を待たずして、ユダヤ人国家が再建される日を知っていたような気がした。であるからこそこの時代に子を産み、育て、いつの日か街を闊歩出来ると教えても居たのである。
満州に行けば、摂政・秩父宮が号令を下したユダヤ人特別居住区がある。そこではユダヤ人が決定を下し、ユダヤ人が自治警察を作り、近隣諸国との交易も保障されていた。

&ref(アンネのオヤジ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);(もしヤハウェが許すならエッセイを書いてみよう。「オットーの日記」とかが良いかもしれん。シンプルに)

オットーは目をつむり、来るべき新世界での暮らしを夢想し始めていた……遠くから地鳴りのような響きが聞こえ、装甲列車が急停止するまでは。

&ref(NRPR戦闘団員.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);ミハイル・ドロズドフスキー将軍の命である。直ちに列車を止めよ

窓越しに見える装甲車両の列にオットーは肝を冷やした。それからすぐに列車が止まり、アナウンスも聞こえて来た。

&ref(名無し.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);……えぇ。ただいまロシア軍の方より、通達が為されました
&ref(名無し.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);アストラハンより先行するユダヤ人移送列車が、イスラム過激派により「攻撃」を受けたと。言う事であります

乗客の九割が腰を浮かせる一方、オットーは窓を睨んだ。

&ref(名無し.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);その為、ミハイル・アレクセーエフ将軍以下の軍集団がアストラハンに駐屯し、現地政府が匿っていると思われるイスラム過激派の身柄引き渡しを交渉する、との事です

やりやがった。と呟くオットーの周囲に人が集う。

&ref(名無し.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);どういう事だ、オットー
&ref(名無し2.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);イスラム過激派は中央アジアに多いって聞いたわ。あと中東
&ref(アンネのオヤジ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);連中の巣窟はアフガンやトルキスタンだ。ここを治めるのは、アラシュ=オルダだぞ……白衛軍ロシアにいちばん最初に帰属した連中だ
&ref(アンネのオヤジ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);奴ら……ユダヤ人を戦争のダシに使いやがった!

-----

http://art5.photozou.jp/pub/867/3222867/photo/253706046.v1517002892.png

戦争は急速に訪れた。ミハイル・アレクセーエフ将軍を筆頭とする中央アジア鎮撫軍集団は、アストラハンの「イスラム過激派」を拘束すべく、電撃的にアストラハンを占拠した。
彼らは、アフガニスタンやトルキスタンのジハーディストに圧力をかけ無力化する為、その通路を邪魔するアラシュ=オルダへの奇襲攻撃を仕掛けたのだ。

http://art1.photozou.jp/pub/867/3222867/photo/253706052_624.v1517002905.png

戦争はロシアの圧倒的優位に進められた。アラシュ=オルダへの電撃に驚いたトルキスタンがロシアに宣戦布告したが後の祭りである。
彼らは草原を駆る騎兵によってロシア装甲軍に対抗し、ものの見事に壊走を繰り返した。

http://art5.photozou.jp/pub/867/3222867/photo/253706053.v1517002911.png

ドロズドフスキー将軍を麾下に置いたミハイル・アレクセーエフ将軍は、このときアストラハンからアフガンとの国境まで広がる中央アジア草原地帯を数ヶ月で踏破した。
そして二ヶ月で標的トルキスタンを併合し、アリム=ハーンら政府首脳部を絞首刑に処す。問答無用の決定はイスラム過激派勢力に「ロシアの領土を侵せば文化ごと滅ぼす」という意思表示だった。
これ以降、ジハーディストたちの活動は下火となり、アフガニスタンは国際社会からも孤立し内戦を繰り返す事となる。

http://art5.photozou.jp/pub/867/3222867/photo/253706110.v1517004107.png
http://art5.photozou.jp/pub/867/3222867/photo/253706058.v1517002928.png

そしてその約一週間後、アラシュ=オルダの残存部隊がアレクセーエフ将軍の総攻撃を受け壊滅した。アラシュ軍はピシュケクで部隊の解散を宣言した後、アレクセーエフ及びドロズドフスキー将軍に投降。

http://art1.photozou.jp/pub/867/3222867/photo/253706055.v1517002917.png

トルキスタンやアラシュ=オルダは三ヶ月で歴史の掃き溜めへと葬り去られ、サヴィンコフ=ロシアによる新体制のもと、中央アジア諸民族は苦難の歴史を辿る事となる。

**金のシャーシカ((ロシア語で「サーベル」)) [#b3f15845]

***モスクワ 赤の広場 [#ga2f8d2f]

http://art1.photozou.jp/pub/867/3222867/photo/253706042.v1517002881.png

&size(20){''栄光あれ 栄光あれ 我らがロシア!''};
&size(20){''幾たびの雷雲を越え 赤日の下にある国よ''};

ロシアの愛国歌が響く中、ウラジーミル・カッペリの装甲軍が赤の広場を凱旋した。
彼の軍勢はアルメニアにおける緒戦でオスマン帝国の精鋭を木っ端みじんに打ち破り、イェルサレムにおいてユダヤ人の保護を懇願する文書をСтавка((ロシア軍参謀本部))に送っていた。
彼の文書はひとえに政治的な意図を排除した軍事的な観点から記されていたが、それが文武百官にとって助け舟となり、アラブ連合における内部対立をごく小規模なものに抑え込んでいた。

&ref(名無し.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);将軍カッペリに、万歳!
&ref(名無し2.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);彼の勇敢なる将校連隊に、万歳!

カッペリは、白馬に跨りながら不動の体勢で敬礼している。彼がヴォルガやシベリアで成し遂げた「氷河の進軍」は、白衛軍を支持する民衆や兵卒たちの間で語り草となっていた。
特に彼の身に付ける白手袋は、カッペリ自身が凍傷を負って肌が青黒くなっているのを隠し、陣頭指揮を続ける為のものだと言う噂も広がっている。
それだけウラジーミル・カッペリと言う男が、英雄的な噂に事欠かない人物である事をサヴィンコフも理解し、十分に活用するつもりだった。

&ref(カッペリ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);(軍事パレードにも、錚々たる面々が集まっているな……)
&ref(カッペリ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);前衛に居るのが、デニーキン将軍とヴラーンゲリ議長か……二人とも渋い顔だ。矢面に立たされて機嫌も悪かろう)
&ref(カッペリ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);(アレクセーエフ元帥は……さすがの変わり身の早さだ。クラスノフ将軍と前衛の上の段に居る。マルコフとドロズドフスキー将軍は更に上段だ)

これがクレムノロジーか。とカッペリは口の中で呟いた。前方に並ぶ将軍連にも順位があり、上段に居る将官たちはサヴィンコフや黒百人組に近い人々で統一されている。
逆にРОВСの保守派は下段に甘んじていて、頂点のサヴィンコフからつむじを見下ろされる事に甘んじている。
「ユダヤ人移送で危険を顧みなかった」と非難されている彼らは、実のところサヴィンコフの謀略に引っ掛かったのである。

&ref(カッペリ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);(政治家連中が中段。デーレンタールが中心だ……それから最上段と中段の間に貴族連中か。ユスポフ公爵が居ない所に悪意を感じるな。ドミトリー大公が小さく見える)
&ref(カッペリ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);(そして真打は……公爵殿下や正教会、ムスリムや仏教徒、ユダヤ教の関係者に囲まれているか)

サヴィンコフは厳格な表情でカッペリ装甲軍を睥睨している。民衆は万歳を唱え続けながら、時おりサヴィンコフに対する礼賛の言葉を叫んでいた。

&ref(カッペリ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);(この、天上世界やシオンの国に響くような万歳の声が、やがてドイツの嘘っぱちを砕いてロシアを真の座に立ち戻らせるかも知れない)

カッペリは黒百人組の如き過激派では無いが、純朴な愛国心を保ちつつ軍務に就いている。彼はチェコ軍団と蜂起した時も、ボルシェビキたちの無道に憤ったが為、後先を考えずに決起した。
故に、サヴィンコフのやり方が過激であっても異を唱えず、むしろ彼に建言して少しでも政策を修正しようとするグループに所属していた。マルコフやドロズドフスキーがそうであるように。
それが実を結び、時節がロシアを再び偉大な国に導こうとしている事をカッペリは喜んでいた。後はサヴィンコフの手綱捌きが情勢を好転させ、ロシアの繁栄をもたらす事を助けるだけだ。そうカッペリは、純朴にも信じていた。

&ref(岩市.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);&ref(親方サヴィンコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);
&ref(カッペリ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);……?

踊り場で騎士が演ずる間、傀儡師が次の舞台を目論んでいる事を知る者は、少ない。

***クレムリン 執務室 [#j312f047]

&ref(親方サヴィンコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);これはどうも。明石閣下には世話になりましたな

サヴィンコフが珍しく、慇懃に来訪客を労った。来客は仏僧の衣をまとっているが、目は炯々と冷めていて取り付く島もない。

&ref(岩市.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);少将殿。こちらがロシア総督閣下であります
&ref(岩畔.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);いやぁ。噂を耳にしただけですが、本物は違いますな……貴方は茶が好きですかね
&ref(親方サヴィンコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);ロシアンティーからダージリンまで何でも。日本には茶道と言う興味深いものがあるとか

サヴィンコフは、日本軍少将と対面する形で座った。少将は名を岩畔豪雄と言い、近衛内閣では秘密戦機関の長を務めている。
秘密戦とは即ちインテリジェントであり、その諜報網はインドからカリフォルニアまで広がっていた。

&ref(親方サヴィンコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);この度はクレムリンまで訪っていただいて感謝しております。明石閣下とお会いしたのは、ペトログラードの安アパートでした
&ref(岩畔.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);閣下も泉下で驚いておりますよ。使い捨てとタカを括っていた男が革命のマラソンで頂点に登り詰め、今やユダヤ教迫害を叫ぶ黒百人組の強面を、殴りつけて黙らせる権力者だ
&ref(岩畔.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);藤原くん、あれ持って来て

藤原と呼ばれた男はさっそく名簿を持って来た。ユダヤ人ネームリストの中には、「アインシュタイン」や「オッペンハイマー」、更には「テッレル」と言った名前がずらりと並ぶ。

&ref(岩市.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);物理学者を中心に集めました。いずれも原子力に関する分野に精通した者ばかりです
&ref(親方サヴィンコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);私はね岩畔少将。あのいけ好かないアゼーフの時代、国家に対して本気で戦争をやろうと企んでいた。そのとき航空機のプロトタイプを目にしまして
&ref(岩畔.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);ほう
&ref(親方サヴィンコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);空から爆弾を落として標的を消す事が出来ると踏んでの事です……しかし、彼ら物理学者から聞いた話は更に興味深い
&ref(岩畔.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);標的を街ごと消せますからな。その理論を信じれば

サヴィンコフと岩畔少将は、秘かにユダヤ人の天才たちを如何に扱うかを考え続けていた。特にアインシュタインの手紙を奪ったサヴィンコフは、「原子力」による爆弾を作る為、ユダヤ人保護を決めたほどだ。
街一つを吹き飛ばし、敵の戦意を挫く最終兵器――恐らくそれが迷いごとで無い事を理解していたサヴィンコフは、ユダヤ人迫害の著しい西ヨーロッパから流れ着いた天才学者たちを保護し、満洲に送ると確約した。

&ref(親方サヴィンコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);故にこうした兵器は、若々しく未来ある国家が独占すべきと考えているんです。ドイツやイギリスが握れば世界は暗黒に包まれ……
&ref(岩畔.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);アメリカの一勢力が持てば新大陸が死の灰に包まれる
&ref(親方サヴィンコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);しかるに、我々はユダヤ人保護や、その他諸問題においても積極的な協力をすべきです
&ref(岩畔.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);……「諸問題」ね

岩畔はサヴィンコフから目を逸らした。この時期にロシアと日本が話し合うとすれば、アムールやモンゴルの問題を除いて他にないのだ。

&ref(親方サヴィンコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);まず、貴方がたは満州からカリフォルニアを勢力圏とする新帝国で、資源に乏しい。片や我が国も新帝国で孤立しているが、幸い資源は豊富です
&ref(岩畔.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);重々承知しております。我が国は文明の十字路にありますので、四方が敵に回れば自殺的大戦争に身を投じるほかありません
&ref(親方サヴィンコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);それに、我が国は大陸軍はあれど、大艦隊はございません。貴方がたに海軍再建のお知恵を拝借したいのです
&ref(岩畔.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);ロシアの支援さえあれば、帝国の繁栄は千年に渡るでしょう
&ref(岩畔.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);そしてそれには、莫大な対価を支払う必要がある……ロシアの要求をお聞かせ願いたい

迫る岩畔に微笑んだサヴィンコフはデーレンタールを呼んだ。藤原がデーレンタールを見据える間、デーレンタールが二人の男の写真を並べる。

&ref(ロマン・ウンゲルン.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);&ref(アレクサンドル・コルチャーク.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);

&ref(親方サヴィンコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);この男たちと……

&ref(溥儀(モノクロ).png,[[閣僚画像置き場]],nolink);&ref(.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);&ref(ウスマーン・アリー・ハーン2.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);
&ref(溥儀(モノクロ).png,[[閣僚画像置き場]],nolink);&ref(ウスマーン・アリー・ハーン2.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);

&ref(親方サヴィンコフ.png,[[閣僚画像置き場]],nolink);この男たちの帝国を、我々で折半しましょう

[[【KRロシア】黒馬を見たり/1937年part2 領袖サヴィンコフ]]に戻る
[[【KRロシア】黒馬を見たり/1939年 アッティラ]]に進む
[[【KRロシア】黒馬を見たり]]に戻る

TIME:"2018-01-28 (日) 15:29:58"

トップ   編集 差分 バックアップ 添付 複製 名前変更 リロード   新規 一覧 単語検索 最終更新   ヘルプ   最終更新のRSS