イングランドの掃溜め

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未曽有の大戦争に勝者も敗者もいなかった。あらゆる国家の財産が戦火にくべられ、全て灰となり、何一つ戻らない。

残ったものとて街の亡骸、十字の行列、失業者の群。甘い皮算用のなれのはてに政治家はこんなはずではと立ち竦む。

前例の無い事態に議会が踊る。城内平和は幕を下ろし、少ないパイを巡って争う。

遅々と進まぬ復興は支配者の怠慢故と民衆に映り、怒りという火種を生む。灰となった世界にきな臭さがまた広がる。

新たなは火は革命となって燃え上がった。

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しかし団結を求める叫び声は嗄れ声。掲げたこぶしは弱々しい、支える腕がやせ細っている。

演説に詰めかけた民衆は彼らを期待する目で見上げども、立ち上がる力なんてとうの昔に尽きている。なんと情けない革命か。

だがそれを政府は抑えられない。唾を飛ばして命令すれども、軍も警察も知らん顔。出動しても集会見物だけして帰ってくる。

時には壇上で御上批判の一つ二つ、暴力なんぞとうの昔に飽いている。なんと情けない政府か。

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連合王国もウェールズの炭鉱から口だけの革命が起きたが、国の建て直しに注力したいがためにさっさと暫定自治を与えて切り離した。

これに独立を望むスコットランドとアイルランドが我もと声を上げ、かえって復興の範囲を絞れるとあっさり認めてしまう。

連合王国は切り崩された。

しかし独立を許さなかったとしても、おそらくは結果は同じだっただろう。

フランス、ドイツ、ロシア、オーストリア=ハンガリー。辿った過程は違っていても着いた先はみな同じ崩壊である。

そう思えば賢明だったとさえ言える。

割れなかった国は不幸である。バルカンは庇護者を失い蠱毒の中、割る余裕は無い。スカンジナビアは人がいない、割る意味もない。

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1935年に国王ジョージ五世はこの世を去った。イングランドの回復の目途がついた頃であった。

大戦以後も続いた重圧と逃避の為に増え続けた紫煙が彼の命を削ったのだ。

ジョージ五世は死の床にあってなお国の行く末に心を痛めていた。長男である王太子エドワードは齢40を超して人妻を追い続けている。

軽率で幼稚な王によって国と王家はどうなってしまうのか。次男アルバートにつつがなく王位が移ることを祈りながら永い眠りについた。

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エドワード八世が即位するとボールドウィン首相は直ちに退位か議会に従うかを要求した。新たな国王をジョージ五世以上に政府が危惧していたのだ。

今の英国にバンジョーを弾きながら赤旗の歌を歌う国王を戴く余裕は無い。

保守党にも労働党にも自由党にも王を擁護する議員は一人とていなかった。ところが窮地に立たされたエドワードに泡沫政党が近づいたことで大きく拗れることになる。

イギリス・ファシスト同盟の指導者オズワルド・モズレーは、政府がエドワード八世の退位とアルバート公爵の即位後に極右極左政党の大々的な弾圧に乗り出す予定であると察知していた。

モズレーは同じ極右政党である帝国ファシスト連盟と共同して蜂起を計画する。追い詰められたエドワードも飛びついた。

当初は党の私兵でロンドンを制圧し国家転覆を狙ったが側近らは無謀が過ぎるとして反対、地方で新政府を立ち上げる計画に変更した。

準備が整うとエドワード八世は退位を選び、ポーツマス港から去ったと見せかけてファシストらと合流、イングランド北部で復位を宣言する。

首都をマンチェスターに置き、首相にモズレーを任命し、元陸軍少将のジョン・フレデリック・チャールズ・フラーに元帥杖を授けた。

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事件を伝えられたボールドウィン首相は卒倒し、新国王ジョージ六世は怒りに我を忘れて怒鳴った。

イングランドの分断にウェールズとスコットランドも反応し、ブリテン島は内戦一歩手前に陥ったがジョージ六世とウィンストン・チャーチルの尽力により最悪の事態は回避された。

しかし軍を出せず新政府の存在を許容せざるを得なくなる。

新聞はエドワード八世の新国家を痛烈に非難した。

裏切者の王、欠地王にも甥殺しのヒキガエルにも劣る最悪の王エドワード。

にわかファシスト、ヒトラーの尻尾モズレー。

軍の鼻つまみ者、魔術と戦車の法螺吹きフラー。

彼らを受け入れた北部も百年前を夢見る斜陽の地と蔑まれた。

そしてそれらを総称しイングランドの掃溜めと呼んだ。

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Last-modified: 2019-12-14 (土) 01:03:20 (44d)