納得できない汎民族主義と納得できない行き詰まり

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エンヴェル・パシャは納得できなかった。

ルーマニアの宣戦は寝耳に水である。

軍はパレスチナとクルディスタンの跡地に派遣していた。

メッカとメディナの両聖地の帰順に気を良くしていたからだ。

ヨーロッパ側には兵士一人として配置されていない。

慌てて全軍をイスタンブールに集結させるもブルガリアは併合されてしまう。

エンヴェルはバルカン政策への批判に納得できなかった。

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ルーマニアの卑劣な侵略は想定外である。

それは認めよう。

しかし断じて失敗ではない。

侵略の咎はルーマニアにある。

被害者である我らが奴らをどうしようと口を挟まれずに済む。

それにブルガリアを再び帝国に組み入れる手間が省けた。

鉄衛団風情の胡乱な暴虐を止められない英仏墺露は、バルカン諸民族の庇護者足りえない。

今こそパン=オスマン主義を達成する時なのだ。

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エンヴェルは顔に泥を塗られた怒りから策も無く軍を進めた。

ルーマニアもオスマントルコを侮りただ前進とだけ通達していた。

結果、局地的数に勝り、カウンター気味に軍をぶつけたオスマン軍が勝利する。

まさかの敗戦にルーマニアは稚拙な撤退をしてしまう。

ただ追いかけただけのオスマン軍によって首都ブカレストが占領される。

さらに旧ユーゴスラビア側と分断され軍の半数は行動不能になった。

海路でもダーダネルス海峡の向こうには物資輸送ができないからだ。

ルーマニアは1年程の戦争で、50年かけて手にした独立を失った。

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怒り冷めやらぬエンヴェルは鉄衛団関係者を悉く逮捕する。

暴走の原因をルーマニア正教への狂信であるとして、彼らが設けた収容所へ更生と称して閉じ込めた。

収容所ではアザーンが昼夜問わず輪唱で外からでも聞こえる程流れていると噂がある。

冷静になったエンヴェルはパン=オスマン主義を完遂させる提案をオーストリアに突き付けた。

ユーゴスラビア崩壊の折、オーストリアに保護されたが飛び地となった地域がある。

そこには合流に失敗した軍が今も駐屯していた。

この軍を安全に帰還させる条件に、オーストリアのバルカン完全撤退を要求した。

オーストリア皇帝に返り咲いたオットー一世は詳細を聞くことなく拒絶する。

エンヴェルは袖にされたのに納得できなかった。

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オーストリア皇帝に兵を慈しむ心はないのか。

ドイツの威を借る姑息な姑息な狐め。

先の大戦で帝位を捨てた癖になんて女々しい一族だ。

あんな時代遅れの遺物が残っているだなんて間違っている。

そうだ。この世界は道を誤ってしまったのだろう。

忌々しいロマノフは極東で生き恥を晒している。

モンゴルには自分をチンギス・ハーンだと言う狂人がいる。

アル=アンダルスはアナーキストの無法者が支配している。

オスマントルコに苦難が続くのも時代が間違っているからだ。

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パン=オスマン主義の夢は潰えた。

オーストリアはドイツと同盟を結んでいる。

流石のエンヴェルも独墺をオスマントルコだけで相手する愚を理解していた。

なのでパン=オスマン主義を捨て、パン=テュルク主義を引っ張り出す。

中華民国が日本の侵略で崩壊しかけていたのだ。

アジアの勢力図が大きく変わろうとしている。

エンヴェルはワハーン作戦を考案した。

イランとアフガニスタンを帝国に統合し、新疆軍閥に圧力をかける。

一度は潰えた東トルキスタン独立運動を再燃させオスマン軍に合流させる作戦だった。

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しかし毛沢東率いる紅軍が陝西省を逃れ、スターリンの支援で新疆を強固に支配してしまう。

ワハーン回廊に軍を置いても動揺はなく、逆に中央アジアには赤軍の大軍が現れた。

パン=テュルク主義の夢も潰えた。

エンヴェルは再びパン=オスマン主義を拾う。

イタリアから離反したアルバニアを掻っ攫い、ギリシャを併合してオーストリアの飛び地を完全に閉鎖する。

そして同じ要求をオーストリアに送るが返事は変わらなかった。

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腹いせにクーデターを仕掛けたが失敗する。

諜報部は続行を命じられた。

国家の資金はまずオーストリアへの嫌がらせに使われ続ける。

何故これほど迄にエンヴェルは苛立っているのか。

オスマントルコの伸張が行き詰まったからである。

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パン=オスマン主義はドイツが立ち塞がる。

パン=テュルク主義はソビエトが阻む。

パン=イスラーム主義はイギリスが邪魔をする。

どこに進もうとしても超大国が行く先に存在していた。

また国内世論も対外進出は十分だと言っている。

帝国の版図は全盛期と引けを取らない。

皇帝も政治家も国民も外より内に目を向けてほしいと望んでいる。

専制は六年目に突入し、改革は放置され、独立紛争の後始末も終わってないのだから。

だが主義を何度も変更した上に一つも成し遂げられずに終わった事でエンヴェルの自尊心は傷ついていた。

エンヴェル・パシャは納得できなかった。

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Last-modified: 2020-02-02 (日) 19:50:06 (24d)