納得できない戦後と納得できない選挙

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エンヴェル・パシャは納得できなかった。

オスマントルコは先の大戦の戦勝国である。

ダーダネルス海峡をドイツ艦隊が無断通過したことからドイツと険悪になり、皇帝メフメト6世はジハードを宣言して連合国に加わった。

エンヴェルは親独派であったのでこの決定に納得できなかった。

帝国を蚕食するイギリスと民族主義で衝突するロシアに加担するなんて馬鹿げている。

この二国を叩きのめす方がドイツを破るよりオスマントルコの利益になる。

だがバルカンを併呑しウィーンを攻め、スレイマン大帝を超える偉業を成せばオスマントルコは再び偉大な国になるだろう。

その為ならば国の好悪は些細な問題だ。

「サルカムシュ作戦」により自ら陣頭に立ってエンヴェルは中立だったギリシャに兵を進めた。

しかし補給と装備を軽視した進軍は早々に行き詰まり、手痛い反撃を受けて計画は失敗する。

エンヴェルは徒に敵と損害を増やしたとして、司令官を更迭されたが納得できなかった。

敗因は敵が想定よりも奮戦したからだ。

敵が強いことに自分の責は無い。この作戦は誰が指揮をしても失敗しただろう。

何故非難されなければならないのか。

成果を上げられずに力尽きたオスマン軍は、中央同盟国がロシアと講和すると矛先を向けられ簡単に潰走する。

イスタンブールは陥落。メフメト6世は戦死。ケマル・パシャがガリポリで反撃に成功した事で滅亡だけは回避できた。

エンヴェルはケマルが救国の英雄と称えられるのが納得できなかった。

イスタンブールも皇帝も失った後で局地的に勝つことが何故救国になるのか。

例えケマルがガリポリで負けたとてサルカムシュ作戦の逆になるだけだ。

アナトリアの山岳かアラビアの砂漠で戦い続けるだけではないか。

ドイツの降伏で世界大戦が終わると講和会議でギリシャ領の細々とした群島が与えられ、イギリスからキプロス島の統治権が返還される。

ロシア革命への干渉戦争で掠め取ったアルメニアは保護国になり併合できなかった。

エンヴェルは中央同盟の主力を引き受け奮戦したオスマントルコの取り分がこの程度だと納得できなかった。

無様に降伏したルーマニアはトランシルバニアとベッサラビアを獲得し大ルーマニアを達成した。

勝手に講和を結び同盟国でもなくなったロシアはコーカサスと中央アジアを保持し続けている。

だというのに最後まで戦い続けたオスマントルコの報酬が少なすぎる。

英仏がオスマンの復活を恐れ不当な決定をしたのだ。

不平等ではあったが、英仏はオスマンの不甲斐なさに失望しており、中東の石油を我が物とする為にも崩壊を望まれているだけである。

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1933年3月、二回目となる帝国議会選挙が開かれた。

救国の英雄ケマルの訴えで1927年に議会制民主主義が導入されていたのだ。

一回目の選挙は国民への周知も不十分であり戦中からの大宰相タラート・パシャが再任している。

しかしタラートは国内の混乱を打開できないまま世界恐慌にも対処できず、共和人民党が選挙に勝利しケマルが新たな大宰相に就任した。

エンヴェルは選挙結果に納得できなかった。

世界恐慌はどの国でも猛威をふるっている。それにオスマントルコが巻き込まれた要因はケマルとイスメトにある。

民族資本の育成だと言って企業主導の国民経済なんか目指したからこうなったのだ。タラートを責めるのはお門違いである。

それに自分が率いる統一進歩党が1議席も取れなかった。

ケマルは選挙で不正を働いたのだ。奴は民主主義を謳う裏で策謀を巡らせ専制を企んでいるに違いない。

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大宰相になったケマルはまず何をするにしても不況を脱却しなければならないと考えていた。

ソビエト連邦の計画経済を参考にした国家資本主義政策を考案したが、その為の資金をどう捻出するかが問題である。

紙幣増刷でも増税でもオスマントルコの脆弱な経済が耐えられない。

そこで軍艦を他国に売却することにした。

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この措置は合理的ではある。

オスマントルコの海軍は国力に対してあまりに過剰であり、大戦が終わった今では無用の長物でしかない。

海軍は巡洋戦艦1隻に軽巡洋艦1隻と2駆逐艦隊まで縮小され、陸軍も維持費削減として余分な旅団が解散させられた。

エンヴェルはケマルの政策に納得できなかった。

帝国の威を示す戦艦を外国に叩き売るのは敗戦国の行いだ。

だがこれでケマルの目論見を看破した。

奴は軍を弱体化させ領土を英仏に売り払う気なのだ。連邦制はそのお題目だ。

この愚行を止めるにはクーデターしかあるまい。

軍にケマルを支持するものは多いが、それは戦勝を喧伝しているからであり、軍縮で疑念を覚えた今は揺らいでいるだろう。

サロニカの時と同じく遠方で兵を挙げ、追討に来た軍を離反させる。

それからイスタンブールに向けて進軍だ。

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だがクーデターは決行されなかった。

行動に出る前にケマルがイズミルで暗殺されてしまったからだ。

先を越されたのである。

軍縮により予備役へ編入されていた青年将校の犯行である。

彼らはケマル・パシャが政治家となって腐敗し、皇帝を傀儡へと貶め帝国を私物化していると恨んだ。

英雄である大宰相は死に、決起部隊への協力を拒否した皇帝アブデュルメジト2世も殺害されオスマントルコは無政府状態に陥った。

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エンヴェルは慌ててイスタンブールに駆け付け事態の収束を急いだ。

非常事態が宣告され憲法は停止し議会は閉鎖。混乱の中で有耶無耶の内にエンヴェルは政権を奪取した。

エンヴェル・パシャは納得できなかった。


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Last-modified: 2020-01-24 (金) 20:51:28 (167d)