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 どうもイタリアの様子がおかしい。独立させたクロアチアと手を結んだと聞いたが、ギリシャ・セルビア同盟とは違い、主導権がクロアチアの手にあると云う。そんな馬鹿な話があるかと思うが、どうも真実のようだ。

イタリア領だったボスニアのクロアチア移管は、迂闊なユーゴスラビア統治が失敗した結果だ。ギリシャもマケドニアを除く、旧ユーゴスラビア領をセルビアに譲っていた。さらに第二次エチオピア戦争の顛末は馬鹿気ているとしか云いようがない。

5月の終わりに始まった戦争は、終始イタリア軍が優勢であった。ギリシャが義勇軍派遣の動きを見せたが、それも時間稼ぎにしかならないだろうと構えていたから、9月に発表されたエチオピアとの和平は青天の霹靂であった。

条約はエチオピアとクロアチアの単独条約ではなく、イタリアも含む包括条約であった。イタリアはこれを受け入れ、アジスアベバ攻撃を打ち切った。その後イタリアはクロアチアから領土を購入し、分断された伊領東アフリカを宣言したそうだ。新聞で伊領南北東アフリカと揶揄されていた。

心得顔でユーゴスラビアに介入し、クロアチア人に悩まされるイタリアの姿は愉快である。ムッソリーニと云う男は余程の外交音痴なんだろう。

この事をうらなり君に伝えたが、聖人である彼は喜ぶことなく、へえと気の毒に恐縮するばかりだ。ユーゴスラビアを崩壊させたクロアチア人にも、イタリアにも、ギリシャにも恨みを持っていないようだ。

それどころか王家を追い出した今のセルビア政府に、不甲斐無い自分に代わって国を維持してくれたと、心から感謝していると云う。うらなり君はどこまで人が好いんだか、ほとんど底が知れない。

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 1936年も冬が近づくころには経済政策も一段落つき、軍拡を本格的に進めていた。2年前に国際連盟で議決されたロシアへの経済制裁で、ブルガリアは最も大きい資源輸入先を失った。一時どうなるもんかと思ったが重ね重ね順調と云える。

赤匪共の悪事を暴いた日本は称賛されるべきだが、その後負けたのだから格好がつかん。ブルガリアにとっては、共産主義の脅威は減らず、ロシアとの関係が悪化しただけだ。

おれが今後の事を考えているところへ、山嵐が話しにやって来た。奴は皇帝になるなんてとんでもない事だとおれに云ったはずだが、今ではオスマンの皇帝である。ドイツのラインラント進駐で、セーブル体制を打破する時が来たと、クルジスタンとアルメニアを続けざまに平らげたそうだ。

今日は祝勝会だから、君といっしょにご馳走を食おうと思って羊肉を買って来たと、包を見せてきた。おれは近頃は黒パン責になってる上、激務続きだから、そいつは結構だと、すぐ料理人を呼びだした。

あの肉はまさかアンカラから持ってきたんじゃないだろうなと聞くと、ソフィアで買ったと云い、ここはアンカラより栄えていて羨ましいと云った。3年の苦労の成果だと誇らしくなったが、国全体の力では、ブルガリアはトルコを下回っている。

山嵐は饗されたイスケンデル・ケバブを無暗に頬張りながら、君あのギリシャがマケドニアを併合した正当性を知ってるかと聞くから、知りたくもないと云ったら、まあ聞きたまえと勝手に説明を始めた。

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 山嵐の説明を聞いたおれは、腹立たしさと、馬鹿馬鹿しさと、滑稽さに噴出した。ギリシャ人は怪しからん嘘つきの法螺右衛門だ。そうでないなら腑抜けの呆助だ。ゲオルギウスのかげま野郎はヘリオガバルス像に縛りつけて海の底へ沈めちまう方が欧州のためだ。

奴等が奪ったマケドニアはブルガリア人が住む地域だ。ギリシャ人の数は少なく、アルバニア人の方が多いくらいだ。係争からブルガリアを外したのは、戦勝国の傲慢ではない、事実を隠すギリシャ人の下劣な根性によるものだ。

アレクサンドロス云々もとんだ詐欺師の言葉だ。本気で云っているのなら、猶更救いようのない馬鹿野郎だ。マケドニア王国の首都であった、アイガイもペラも、欧州大戦の前からギリシャ領だ。既に故地は取り戻しているではないか。

そもそもアルゲアス家はバルバロイではなくヘレネスの出で、ヘラクレスの後裔、ペロポネソス半島のアルゴスの系図だと主張していた。あの地域はマケドニア王国とは関係がない。一時は王国の支配下に入っていただろうが、そんなものでギリシャの支配の正当性にはならない。

スラブ系とギリシャ系と云うのも癪に障る。ファルメライヤー程過激な事を云うつもりはないが、ギリシャ人はスラブ人と繋がりは無いと透かす態度は不愉快だ。イオニア人や、アイオリス人、ドーリア人の血が流れていない事は無いだろうが、スラブの血を否定するだなんて失敬千万だ。

いや、奴等も内心では否定できないから、アレクサンドロスだの、ローマだの、ビザンツだの、ちぐはぐな権威でアイデンティティを守るっているつもりなのだ。ゲオルギウスは自分の称号を何と名乗っているんだ。ワナカか、バシレウスか、アウトクラトールか。全部繋げて名乗ったらいい。

今のギリシャ人はトガを纏い、ホメロスの著作を抱き、十字架を握っている。ラテン語を喋らず、オリュンポスの神々を信仰せず、スラブを貶す姿は道化以外の何者でもない。


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 羊肉の礼に青写真提供を約束した。トルコが強くなれば、ギリシャの勢いを早く止められるからだ。君イスタンブールに欲はあるか、と帰り際に山嵐が云った。ふざけたことを云う。おれはブルガリア人とブルガリア国民の王だ。トルコ人とトルコの土地の面倒なんて見る余裕はない。

だが、おれはオリエント急行が好きだ。だからイスタンブールにあるシルケジ駅も好きだ。君がメフメト帝のように、イスタンブールを攻めるのなら、あの駅に砲弾を落とすのは止して欲しい。約束してくれるなら、トルコが今もギリシャに払う賠償金をブルガリアが担っても構わない、と云った。

山嵐は大きく笑うと、一国の王がそう我儘を云うんじゃないぜ。肩代わりはいらんが、駅の事は約束しよう。トルコの街にある資産を、トルコ人が壊すのは馬鹿馬鹿しいからな。と云って、愉快そうな顔で帰っていった。

トルコはそう遠くない内にギリシャと開戦するだろう。南でギリシャ、西でセルビアと戦わなければならないブルガリアは、殴りこむ機を窺わなければならない。国力がトルコに劣っているのだから、同時に宣戦を布告することは難しい。山嵐に待てと云う訳にもいかん。

漁夫の利だなんて甘い考えは持つべきではない。トルコが負けたとしたら、ブルガリア一国で立ち向かわなければならなくなる。それにトルコもブルガリアも、ギリシャを完全に打ち破ることはできない。エーゲ海の島島を占領する、海軍を持っていないからだ。造る暇もない。

場合によっては軍事計画を切り上げなければならない。戦車と云う物に、軍も弟も惹かれているが、果たして間に合うかどうか。研究に大幅な予算を与え、開発しても生産にまた莫大な金が要るらしい。お陰で昨日も黒パン、一昨日も黒パンで今夜も黒パンだ。

だが装甲に守られた戦車なら、兵の犠牲は減るだろう。黒パンの方がましだ、黒いスカーフよりは。

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Last-modified: 2019-04-28 (日) 00:19:02 (111d)