KRフランス・コミューン シーシュポスの神話

正義の人びと

ソレリアン、ジャコバンによる現政府への批判は苛烈であった。
 
ジャコバンの頭目、マルセル・ディートによる軍部トラヴァイユール派閥への批判を皮切りに、正義の人びとらは攻勢を強めた。
 
 
 
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現与党の戦争指揮はもはや国家的犯罪である!
特に罪深いのはトラヴァイユール諸君であり、彼等はかつて平和的な、夢想主義的な革命を口にしながら、その実態としてこのような大戦争を引き起こしたのである!
我々はその事実を強く非難するものである!
諸君らは今こそ、自らの手についた同志達の血を省みる場面に行き着いたのではないか!?
 
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対独報復は確かに国家的使命であったかもしれない。それは我々の立場でも変わらない。
けれども我々は同時に、ジャコバン達の非難の言を大いに認める立場にある!
諸君らは今こそ責任をもって退陣するべきである、と私は宣言する!
 
 
 
特筆すべきは、ジャコバン・ソレリアンが議会内において反駁し合わず、団結をもって現政府を攻撃しているという部分にある。
 
軍事について、ソレリアン・ジャコバンは全く違う立場を取っている。
 
それはつまり、
対独報復を誓った第三共和制時代からの軍人達からなるソレリアン。
国軍を革命の原動力と考え、それらの刷新を目論むジャコバン。
 
 
どちらも軍事力の拡大を望んではいるのだが、見据えているものは全く違う。
そのために彼等は、議会において常に反発し合ってきた。
1936年BGT選挙においてはアナーキストが多数派となったものの、それはあくまで議会内における権勢であり、実態としての軍部の支持を担うのはソレリアンであり、また革命を賛美する一般大衆にとってはジャコバンこそ革命の象徴である。
 
ソレリアン・ジャコバン双方の切り裂くような演説の後に、軍部においては少数派と言える義勇軍派、アナーキスト閥に属するアンリ・ロル=タンギが壇上に上がった。
 
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ソレリアン・ジャコバン達が息を呑む。
 
彼。アンリ・ロル=タンギとは革命そのものであったからだ。
 

革命と結婚した男

 
義勇軍派、アナーキスト閥、アンリ・ロル=タンギとは革命そのものであった。
彼は幼少期、鉱山労働者として働いていた。
本来であれば彼は歴史の渦の中に埋没する一労働者でしかなかった。
そのような彼に転機が訪れた。
フランス南北戦争である。
フランスが第一次世界大戦で敗北し、塗炭の苦しみの中でもがき始めた頃、彼はまだ11歳であった。
鉱山労働者達が苦しみの中で働くことを強いられる現実を見ていた彼は、即座にフランス革命軍の側につき、兵士として戦い始めた。
彼の"義勇兵"としての経歴はここから始まった。
部隊の指揮で頭角を現し始めた彼は、革命期特有の急速な人事によって、瞬く間に義勇軍全員を統括する指揮官となる。
 
鉱山労働者の一少年が、革命と内戦によって一軍人として立身出世を果たす。
彼に纏わる物語はフランス中に知れ渡っており、妻を娶らず一軍人として闘い続けるその様*1から、人は彼を「革命と結婚した男」と呼んだ。
現時点でも、陸軍大将として歩兵部隊を率いて戦闘している彼は、合間を縫ってこの国会の壇上に立っているのであった。
 
彼は言った。
 
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最前線における兵士達の辛苦とは、ここに安穏と座り込む政治家達には理解出来ないものである。
確かに、トラヴァイユールの主張した機甲戦はドイツ軍に対し、一部において質的優位を確立した。
これは間違いないだろう。
だが、そのような改革をもってしても我々はあれだけの戦死者を出した。
トラヴァイユールの議員諸君に問いただしたい。
 
諸君らは一度でも野戦病院のテントを訪れたことがあったか?
腕や脚を失った若者達が虚ろな目で虚空を見つめる様を諸君らは見たのか?
 
私は見た。
幾度となくそれを見た。
 
我々は軍によって独立を許されているのは紛れもない事実であるが、戦争継続と同時に、あの惨劇を過去の、歴史上の概念にしなければならない。
これは事実ではないか?
 
そうだろう、諸君!
 
 
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そうだ! その通りだ!
 
その声はまずソレリアンから上がり、次にジャコバンから、そして、アナーキスト達がその宣言を称賛した。
そのような喧騒の中にあって、トラヴァイユール派議員達はじっとアナーキスト達を睨みつけた。
 
 

アナキストの正義

 
トラヴァイユール派閥議員、ロジェ・サラングロは事前に私と打ち合わせをしていた。
 
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議会において我々民主主義勢力は劣勢だ。少なくとも今時大戦における戦争指揮について、ソレリアン・ジャコバンらは共同で戦線をはり、我々与党を攻撃するだろう。
しかしそれは与党を担う諸君らアナーキストにとっても不都合ではないか??
 
私は言った。

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ふむ、ご尤もで。
 
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私の言いたいことが分かるだろう。
現時点で議会多数派である諸君らアナーキストと我々トラヴァイユールが共同戦線をはることで、彼等の攻撃を上手く交わし、民主主義の命脈を保とうではないか!
 
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成る程。言い分はよく理解した。
 
この時点で彼等は大きな間違いを犯していた。
それはつまり、自己の判断によって民主主義勢力二つが共倒れになるという可能性について、一切考慮をしていなかったということだ。
トラヴァイユール……社会民主主義勢力である彼等は理想主義的であり、実務的にも優秀なのは事実だ。
しかし如何せん、議会の操縦に慣れていない。
ソレリアン・ジャコバンはともに、民主主義を軽視しているのだ。
彼等を操縦するには、時に彼等のやり方を踏襲しなければならない。
 
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そう、つまり……裏切り、奇襲といった方法を、我々がパスティーシュしてやらねばならない。
 
 

1941年度BGT総選挙

軍事情勢

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1941年BGT総選挙における第一の議題であった。
議会ではそれぞれ
トラヴァイユール:軍の近代化
ジャコバン:最高司令部の独立
ソレリアン:軍をCGT(労働総同盟)の完全な統制下に置く
アナーキスト:軍を自由化し、義勇軍への転換
が主張されるも、最高司令部の独立が軍部の暴走に繋がることを憂慮したアナーキストらによってソレリアン案が支持、採択されることとなる。
 

国内保安

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次に議題として取り上げられたのは国内保安、とくに人民警察の働きについてであった。
ここでアナーキスト閥は軍事についてソレリアンに妥協をした見返りとして、人民警察の民主化を採択させるよう働きかけた。
これが同時に民衆の支持を得ることにも繋がり、人民警察は内戦時の戦闘的組織から民衆のための組織へ変化することとなる。
 

情報機関

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次に議題として取り上げられたのは統合情報委員会。つまり、フランスコミューンの諜報組織の働きについてであった。
軍事についてアナーキスト閥の裏切りの代償としてアナーキストはこの分野においてトラヴァイユール案を支持した。
 

経済方針

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次に議題に取り上げられたのは経済方針であった。
この議論については全ての派閥が道を譲らず、完全な民意による投票によって策定されることとなった。
結果はアナーキストの「共同組合の権力強化」が選択され、経済的にはより民主的な方向に舵が切られることとなった。
 

対外政策

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この方針について、今時選挙において劣勢に立たされたジャコバン達は大規模キャンペーンを打ち出す。
世界革命、理想世界の実現を訴えた彼等は、現在の戦争を継続し、世界を新しいカタチに作り変えることを明言した。
「赤旗はどこにでも翻るのだ!」
 
 

多数派現れず

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BGT総選挙において多数派は現れなかった。
そのため、各派閥は連立を組むことでBGTの主導権を握ろうとする。
もしここで全体主義を指向するソレリアンとジャコバン達が手を組めば、議会民主主義は破綻する。
 
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つまり、アナーキストらはそれを読んでいた。
 
苦悶の表情を浮かべながら、カミュらアナーキスト議員と接触したのは、ロジェ・サラングロであった。
 
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言葉にしなくても、君には分かるだろう。
 
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分かってるとも。連立、だろう?
 
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ああ。納得は行かないが、そういうことだ。
 
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議会政治とは複雑怪奇。化かし合いの世界だね。そうは思わないか?
 
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君達を見ていればよく分かるよ。
 
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だからね、私は統合情報委員長の座を降りるよ。その代わり、ピエール・モナット氏をその座に入れ給え。
 
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君の政治的権力は一議員にまで落ちるが、構わないのかね。
 
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構わんよ。その代わり、外務大臣にジャン=ポール・サルトルを入れ給え。
 
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それぐらいのことならどうとでもなる……では
 
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トラヴァイユール=アナーキスト連立は、成立だ。
 
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こうして、トラヴァイユール=アナーキスト連立は成立した。
 
 
 
"正義の人びと"の争いはこうして終結した。
しかし戦争は未だ継続し、人々は戒厳令下に生き続けている。
 
次回、ドイツ人の友への手紙
 
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*1 史実において彼は1938年に結婚しているが、この世界における経歴を見れば明らかに少年義勇兵上がりであることから、このような設定を採用した

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Last-modified: 2019-05-11 (土) 05:10:51 (11d)