KRフランス・コミューン シーシュポスの神話

裏と表

1936年1月、パリ市内にて

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Vox Populi(新聞紙)見出し
「マルソー・ピヴェール失脚! BGT選挙開始か!?」
 
私はその日、パリ市内モンパルナス通りにあるカフェ・ド・パリで一人新聞を読んでいた。
パリ市内はいつも雑然としていて、人々は狭苦しく肩を寄せ合い、道を行き来する。
「会計を頼む」
「はい。800フランとなります」

 
 
くわえタバコでリュクサンブール公園へ出ると、大きな人だかりが二つ出来ているのが分かった。
その中心では、男が演説をうっている。
 
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フランスは今危機に瀕している!
ドイツやカナダ、アフリカで反動主義者共が我々を見つめながら牙を研いでいる!
その牙はいずれ我々に向けられるであろう!
我々は反動共を袋小路に追い詰め、彼らを歴史の彼方へと葬り去らなければならない!
世界革命を!
革命の輸出を!
我々に誇りを!
"全ての権力を労働総取引所(BGT)に!"
"プロレタリア独裁を実現せよ!"
 
 
その反対の人だかりの中心で、別の男が演説をうっている。
 
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フランスは破れた!
かの屈辱的な講話と売国的な妥協の末に、我が国はドイツなる悪辣な王党派をのさばらせるに至った!
我々が求めていることは単純明快である!
今こそは、全ての諍いや衝突を捨て去り
"全ての階級が手を取り合って"
"我々は報復するのだ!"
"もはや労働総取引所(BGT)の役目は終わった!"
"我々に任せて欲しい。されば我々は全ての敵対者を滅ぼして見せよう!"
 
 
二つの人だかりは交わらず、集団の外縁部ではお互いの支持者が睨み合いを続けている。
じきに二人はお互いのことを名指しで非難し合うであろう。
そして、支持者達は殴り合いを始め、その騒乱の中でいつの間にか渦中の二人は居なくなる。
毎日やっていることだ。飽きもせず、毎日、毎日やっていることだ。
 
 
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「「「「くたばれソレリアン共!」」」」

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「「「「死に晒せ! ジャコバンの無駄飯食らい共!」」」」
 
 
 
こうして殴り合いの抗争が始まる。
やれやれ、だ……
 

パリ市内、アンリヴァッド廃兵院程近くにて

 
カミュ.png 入りますよ、我らが"バトゥコ"よ。
 
部屋には、彼がウクライナで率いていた黒軍の旗が飾られている。
 
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「労働者の自由の獲得を邪魔するものは皆死ね!」
 
マフノ2.png あ? なんだ、カミュか。何のようだ? この飲んだくれに。
 
カミュ.png 飲んだくれている場合じゃありませんよ。ネストル・イヴァーノヴィチ。選挙が始まるのです。BGTの選挙が
 
マフノ2.png そんなもの、どうだっていい。フランス人は外国人を嫌うのだ。ワシがウクライナ人だから。全てはそれが……
 
カミュ.png 分かりましたから。大丈夫です。彼らが、あのトラヴァイユール達が過激派を黙らせるのには、我々の力が必要なのです。我が"バトゥコ"よ。今次選挙では必ず、貴方を元首の座に据え付けてやりますとも。
 
 
……そのためにまず、髭を剃り、顔を洗い、水を飲みましょう。分かりましたか?
 

1936年BGT選挙

 
カミュ.png 今のフランスには、主に四つの勢力が存在している。私の仕事は、これらの勢力を観察しながら、妥協と譲歩を見出し、我々アナーキストの理想を実現することにある。
 
 
勢力は、以下の通りとなる。
 
:トラヴァイユール
1925年に成立したイギリス連合のシステムに影響を受けた社会民主主義勢力だ。
イギリス連合において新たに作り上げられた憲法条項の導入を目指す彼らはこのフランスコミューンにおいて民主主義の拡大を望んでいる。
現在のフランス・コミューンを率いているのは彼らだ。
 
:ソレリアン
革命的サンディカリスト、ジョルジュ・ソレルの名前を冠するこの政治勢力は労働総取引所(BGT)における最大勢力である。
現在存在する「総労働会議」は資本主義経済からサンディカリズム経済へ移行するための過渡期的存在と定義しており、革命がなった現在においてはそれを解散させ、より中央集権的な国家を作り出そうとしている。
軍の指揮官の大半がソレリアンであり、南北戦争時代にはジャコバン達と共闘した彼らであるが、フランス・コミューン成立の後に、その矛盾が吹き出す形となっている。
リーダーはかつてジョルジュ・ソレルと共に政治活動を行っていた政治家、ジョルジュ・ヴァロワである。
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:ジャコバン
失敗したロシア革命のリーダー、ウラジーミル・レーニンに強く影響されたこの勢力は彼の唱えた共産主義の理想……「革命の輸出と世界革命」を実現するために戦い続けている。レーニンが率いた勢力であるボルシェビキの名で呼ばれることもある。
彼らの政治宣伝手法は革新的であり、フランス南北戦争においてはプロパガンダの側面で多大な功績を残している。
革命戦争時には階級敵であるブルジョワジーを"浄化"しようと目論んだが、BGTの穏健派によって阻止されている。
BGTは政治工作によって彼らを少数派に追い込むことに成功しているが、議会においても社会においても、彼らジャコバンの影響力は色濃く残っている。
先述したソレリアンとは犬猿の仲である。
リーダーは革新派海軍将校のマルセル・ディートである。
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:アナーキスト
我らが"バトゥコ(父)"……ウクライナの革命家ネストル・マフノが率いる政治勢力だ。
BGTにおいては多数派とは言い難い勢力だが、地方分権と小さな政府を指向する自由主義者の集団だ。
私もこの派閥の一人だ。
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カミュ.png 1936年時選挙における議題は以下の通りだ。
 
・軍方針の明確化
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・統合情報委員会(諜報組織)長官の決定
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・内務委員の決定
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・経済方針の決定
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・対外方針の決定
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選挙日1―コミューン軍の方針明確化

 
第一に話し合われたのは、フランス・コミューン軍の方針についてであった。
フランス南北戦争において民兵を率いてきたのはジャコバンである。
 
彼らはプロの軍人を『反革命的存在』であると考え、全く新しい、いわば「人民軍」と呼べるような軍に作り変えようと考えている。
 
これに強く反対しているのが、対独報復を訴えるソレリアン達である。
フランス南北戦争においてコミューン側についたプロの軍人達がソレル主義を支持している。
彼らは軍の自主性を維持することを前提としており、ジャコバンが新しく作ろうとする「人民軍構想」に強く反対している。
 
これらの勢力が本格的に衝突を開始すれば、クーデター……最悪の場合には内戦をやり直すことにも繋がりかねない。
 
その中で一際目立ったのが、トラヴァイユールの支持する軍人「ポール・ルジェンティオム」の提示した「機甲戦論」であった。
 
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第一次世界大戦は塹壕戦によって人間が無限に食い散らかされる底なし沼であった。
どのような戦争を行うにせよ、かの消耗戦の二の舞だけは絶対に、絶対に避けなければならない。
我々はそのために理論を構築してきた。
それこそが「機甲戦」なのである!
 
 
その理論が現実になるかどうかはともかく、このロジックは多数の国民から支持を得た。
そして、この新たなるロジックの提示によって、ジャコバンとソレリアンの―そして、その裏にある革新派軍人守旧派軍人の―対立は有耶無耶になった。
 

選挙日2―統合情報委員会

 
フランスコミューンは反動派との戦争以来、国内の情報統制を強めてきた。
 
それは単純に言えば戦争に勝利するための方策だったわけだが、内戦が終結した今、国民達は自由な社会を希求するようになり始めた。
 
壇上において、私はこのように演説した。
 
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統合情報委員会に所属する警察諸兄については、その大いなる働きに十分な称賛を与えたい。
しかし、もはや内戦の危機は去り、国家は一つの旗の元に統一された。
猟犬として働き続けた警察諸兄らは今一度、自らの巣に戻り、次の戦いに備えて休みを取るべきであろう!
 
 
勿論、ジャコバン・ソレリアンは互いに情報統制の強化を主張したが、彼ら自身が結託することがない限り、彼らの意見が通る日はない。
そうして、統合情報委員会長官には、私が就任することと相成った。
 

選挙日3―内務委員

 
トラヴァイユールに所属していたシャルル・ラパポールが内務委員を辞任すると、同派閥に所属する失脚したマルソー・ピヴェールが政界への返り咲きを目論んでいた。
しかし、このポストを巡る選挙においてもピヴェールは敗北し、より自由な内政を行うと宣言していたモーリス・ジョワイユ(アナーキスト)が当選した。
 

選挙日4―経済問題

 
来るべき次の戦争に備えて、各派閥は次の経済政策を練り始めた。
ジャコバン・ソレリアンは共に計画経済を主張し、ジャコバンはより高度な工業化を。
ソレリアンは農業政策の重視を訴えた。
しかし、市場はあくまで自由経済を求めており、市場への束縛を緩める方針を打ち出したアナーキストのダニエル・ゲランが当選することとなった。
 

選挙日5―対外方針

 
これはフランス・コミューンにおいてもっとも関心の寄せられた議題である。
即ち、
 
トラヴァイユールの国際協調主義(平和的革命論)
ジャコバンの世界革命(革命の輸出)
ソレリアンの対独報復(中欧同盟打倒)
アナーキストの欧州社会主義(協商打倒)
 
の四つから一つを、我々は選び取らなければならなかった。
 
 
ここでフランス・コミューン政府は、内部において妥協を強いてきたジャコバンに対し一定の譲歩を示すと共に、外交においてジャコバン達の優れたプロパガンダイメージを推し出すために「世界革命」が採択された。
これが決定した瞬間、労働総取引所においては「インターナショナル」が歌い出されたという。

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フォールとマフノの対立

 
こうした妥協と譲歩の末、1936年次選挙においてはアナーキストの優勢が確立された。
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その中でネストル・マフノは、選挙終了後初の議会においてこのように発言した。
 
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私はアナーキストの大元老であるセバスチャン・フォール氏を大いに尊敬する。
しかし、彼はもはや老齢であり、これから我が国が戦争を目指していくにあたり、それは大いなる不安要素である。
ここで私は、BGT議長についても国会で審議を行い、決定を行うべきであると宣言する!
 
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セバスチャン・フォールはこの演説に対し、一つの反論も行うことはなかった。
BGT議長について国会内で採決が行われ、ある程度の棄権もあったものの、ネストル・マフノはフランス・コミューンにおいて公安委員長に任命されることとなった。
 

1936年、統合情報委員会長官室にて

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Vox Populi(新聞紙)見出し
「第三インターナショナル開始!」
 
カミュ.png
私は相変わらず新聞を読んでいる。
この職についていくらか経ち、彼らも私がどのように仕事をするのかを理解したらしい。
つまるところ、私は「仕事をしない」という仕事をしているのだ。
いざとなれば人狩りにだって使える情報機関。これらの長官席をソレリアンやジャコバンに渡さぬよう、深々と座り込む。
それこそが、私の仕事であった。
 
ドアをノックする音がする。荒々しいそれによってドアが振動する。
 
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入って宜しい。
 
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やあ、同志よ。
 
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……いいのかね? 公安委員長、ネストル・イヴァーノヴィチがこのような場所で遊んでいても。
 
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我々アナーキストは人々を支配しない、自由な国家を作るために努力しているのだ。
君だって同じだろう。そして私だってそうだ。
そしてこれこそが、アナーキストにとっての仕事なのだ。
 
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『仕事をしない』という仕事かい?
 
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そういうことだ。
さて、情報委員会長官殿。
昨今の世界情勢をどう見るね?
 
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第三インターナショナルが開催されたね。
 
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そうだとも。外務大臣が今出席している。
 
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どうせ、世界の革命国家に支援を送ることが出来るのは我々とイギリス連合がせいぜいだろう。言ってしまえば、我々が世界の同志に施しをするための集会でしかない。
 
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冷めとるなあ!
 
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事実ですからね……スパルタキアーデだって、我々の自慰行為に過ぎないのさ。
 
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いずれはオリンピックなぞという古臭い文化は消失し、スパルタキアーデこそが真の世界大会となるであろうよ。

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その布石、というわけですか
 
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その通りだよ同志アルベール・カミュ!
 
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……いずれは、ね。
 
 
 
 
――このフランス・コミューン政界において我々は弱体である。
しかし徐々にその理想を実現しようと前に進み続けている。
政治社会の『裏と表』
次に出るコインの目はどちらであろうか。
 
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Last-modified: 2019-04-23 (火) 20:27:14 (32d)