I Never Promised You a Rose Garden

lrPTUpG.png

1950年7月11日。イスラム国は全ての拠点を失い消滅した。

聖戦を叫ぶ彼らは群狼の如く獰猛であった。

だがイギリスによる飽和戦術核攻撃の前では何の意味も無い。

軍司令官の要請一つでポーツマスから水素爆弾がICBMに乗って飛んでくる。

攻撃が停滞すれば核を撃つ。

反撃を受ければ核を撃つ。

敵が集まれば核を撃つ。

包囲したら核を撃つ。

圧倒的暴力の濫用にたかだか1箇所でしかないエルサレム破壊の衝撃は埋没した。

HaRaiBC.png我が軍の敵は生きた兵ではなく死んだ兵であった。散らばる骸が最も行軍の妨げになった

eLm1DeH.png

一度目の戦争は経済を破壊した。二度目の戦争は主義を。三度目は理想を。

四度目があったとしたら次は文明が消えるだろう。

誰もが全ヨーロッパを覆う巨大なキノコ雲を想像した。

NAUELOE.png核攻撃を跳ね返す戦車を開発できないだろうか?

しかしその予想は外れていた。既に四度目の戦争は始まっていたのだ。

U7di213.png

国王エドワード九世と首相モズレーの個人的関係は良好だが政治的には違う。

北イングランド成立以来モズレーはファシズムとコーポラティズムによる改革を志向してきた。

エドワード九世は改革を妨害し自由主義と自由経済を堅持している。

国王の政治的盟友は北イングランド時代からこの国に尽くした企業。

ローヴァー、スワン・ハンター&ウィガム・リチャードソン、フェアリー・アビエーション、フォーランド・エアクラフトである。

VQuMGVn.png

イングリッシュ・エレクトリック社など国を跨いで活動する企業も多かったがこの四社は北イングランドとエドワード九世に賭けたのだ。

エドワード九世は彼らに報いてブリテン統一の折、企業再編が行われるとローヴァーがレイランド社を買収するなど四社がイギリス経済を掌握する。

モーズリー.pngBUFの政策であった産業分野ごとの統制が目的だったのにどうしてこうなったのか……

戦後は強大な資本力を元手に戦災復興のお題目でヨーロッパ各地へと進出していった。

DBTUaW0.png

核攻撃により残骸を晒していたランスのノートルダム大聖堂、サン=レミ旧大修道院、トー宮殿は撤去され跡地にはビルが並んでいる。

エルサレム旧市街も石油工業の最新施設に塗り替えられた。

だがロンドンはそのままであった。

iZnHIy6.png

エドワード8世.png最初に核爆弾が落ちたこの街を戦禍を永遠に伝える不朽の記念碑として人類平和の礎にしたい

爆心地とされたウォータールー橋から半径約二キロは文化財として保護されテーマパークの建設が検討されている。

エドワード九世が取り留めのない思い付きを口にし、企業が自らの利益を絡めて遂行する。それが今のイギリスである。

当然活動はイギリス国内に留まらない。自由主義を振りかざし他国に踏み込み経済を破壊して首輪を嵌める。

直接戦闘が無いから熱くはない、しかし秩序は定まらず変化が激しいから冷たくもない、経済戦争の時代が幕を開ける。

t8zTdIs.png

最初の犠牲者はウクライナであった。

エドワード九世は核攻撃に横槍を入れられたと気分を害していたのだ。

企業としてもバルト三国からトルコまで八の属国を持つウクライナは目障りである。

まずスロバキアとセルビアの一部侵略が成功するとあとはドミノ倒しにオデッサ、キエフ、ハリコフと奪っていく。

遂にはウクライナの土地にウクライナ人の物は一片も無くなった。ウクライナの農民は全てイギリス食品企業の従業員となったのだ。

bQUtRGD.png

汎欧議会はウクライナ崩壊によって揺れ、その隙を企業の魔の手は逃さない。

地中海委員会・北西ロシア・両シチリア・トルコ・ブルガリア・ルーマニアが次々と餌食となる。

勿論抵抗した国もあったが彼らの末路はなおさら無残である。正体不明の武装組織が政変を起こしイギリス企業に土地を売り渡したからだ。

Me7gl4J.png

国王と企業の横暴を止める者はいない。

軍に発言力を持つ彼らは核を傘に着ていた。外国は中東の二の舞になることを恐れている。

支配された地域は彼らの思うがまま。民衆に立ち上がる勇気はない。

エドワード九世の関心が移るまで欧州は貪られた。

9yoergL.png

生き長らえたのは戦中からイギリスに従ったスカンジナビアとバイエルン。

早期に大陸領を差し出して矛先を逸らした地中海委員会とその属国ギリシャ。

英国王が飽きるまで耐えたバルト三国とソビエト、アルメニア、アゼルバイジャン。

生かした方が面白いと思われたプロイセン、ポーランド、ルーマニアの13カ国である。

POF3vYc.png

エドワード8世.pngヨーロッパ大陸は今や新たなカナダでオーストラリアでインドだ。大英帝国はより強くより美しく生まれ変わった

一方グレートブリテン及び北アイルランドの国民たちは上も下も何不自由なく繁栄を享受していた。

エドワード九世の気まぐれで情勢が変わる支配地は投資先として安定に欠けている。

自由経済の名の下に集約されたヨーロッパの富は本土に注がれ北イングランドの工業は栄光を取り戻したのだ。

nK1aARN.png

ヨーロッパの中は自由経済が徹底されているが内実はイギリス企業の完全管理下にあり、外に対しては厳重な新スターリング=ブロックと化す。

さらに企業は安定した投資を続けるため本国の労働者に対しては手厚い保障を設けて懐柔もしている。

資本に完全支配された世界は、奇しくもモズレーとBUFの念願である反共主義と保護貿易主義と労働者救済の政策を実現していた。本国の中だけであるが。

本国の国民は国王を称え、首相を誉め、企業を誇る。非難の声は小さい。

JIzuxSU.png

最近のエドワード九世は爵位を新たに創設して塗り絵のように領土を与えている。それに飽ければ適当な理由で取り潰すだろう。

この悪趣味な時代はいつまで続くのか。王が死ぬまでか。それより早く破綻を起こすか。まだ誰もわからなかった。


トップ   編集 凍結 差分 バックアップ 添付 複製 名前変更 リロード   新規 一覧 検索 最終更新   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2020-10-16 (金) 22:59:08