ブッダは恥辱に崩れ果てた

神さえも見放した国

8bqIosZ.png

峻厳な山岳と苛酷な砂漠が広がるアフガンの地

シルクロードとカイバル峠が重なる文明の十字路

数多の勢力が流れ込み波濤を立ち昇らせた戦乱の十字路

この地に独立の機運が芽生えたのはペルシア帝国とムガル帝国の衝突の中であった

近代アフガニスタンの歴史とはすなわち抵抗の歴史である

ペルシアに歯向かってはイスファハーンを陥落させ世界の半分を破壊した

ムガルに楯突いてはデリーを陥落させ帝国の権威を地に叩き墜とした

グレート・ゲームにおいては大英帝国に屈する時もあったが三度の戦いの末に独立を勝ち取った

夥しい血の上に独立を固めたアフガン王国であったがこの地に染み付いた抵抗は王にすら牙を剥く

b5oFsyr.png

カブールの王宮では御前会議が開かれていた

現国王ムハンマド・ザーヒル・シャーの下で政策を定める議論が続く

方針こそ国家の近代化と中央集権化の推進と一致していた

揉めているのはその進め方である

首相ムハンマド・ハーシム・ハーンは有力部族や宗教勢力に協調と妥協を重ねながら物質的改革を重んじる穏健派

軍を束ねるムハンマド・ダーウード・ハーンはソ連の五カ年計画とトルコの世俗化を信奉し旧弊打破を目指す急進派

主流は先王ムハンマド・ナーディル・シャーの時代から穏健改革路線である

rBbqB1c.png我が即位より既に三年、然れど未だ治績無し…

会議を傍観していたザーヒル王は吐き捨てるように呟いた

ehClQuc.png何を仰せられますか陛下!まだ三年で御座いましょう

まさに論陣を張っていたハーシムは水を差されるも慌てて国王の言葉を否定する

ehClQuc.png先王陛下が暗殺によって身罷られる悲劇と混乱から始まったゆえ。また王の業績とは数年で顕れますまい

rBbqB1c.png否、既に三年なのだ首相よ。嘗てならいざ知らず今のアフガニスタンではな

rBbqB1c.png先王が反逆者カラカーニーを征し、暗殺されるまで四年。大英帝国より独立を勝ち取ったアマーヌッラーですら王位を十年維持できなかったのだ

dAA1Tnq.pngならば改革を急ぐべきなのです!

ダーウードは王の言葉に飛びついた。ハーシムら穏健派に抑え込まれていた所に下りた王の言葉は渡りに船であった

dAA1Tnq.pngアマーヌッラー・ハーンの亡命は元を辿れば有力部族シンワリ族の反逆から始まり、先王陛下の暗殺を防げなかったのは王権の脆弱さの所為なのです

dAA1Tnq.png部族氏族の力を削ぎ、政府と王朝を強固にしてこそ、陛下の憂いは晴れるのです

ehClQuc.png軽々しく事をぬかすなダーウード!

ehClQuc.pngシンワリ族による蜂起もハザラ人による暗殺も共に改革が生む恨みより出でしものに他ならん。迂闊な改革こそが王朝を脅かすのだ!

dAA1Tnq.png恨みならば遅々と進まない改革から既に生まれているのです。悪習に縛られる国民の姿に目を瞑ってはそれこそ国家の足取りは覚束無くなるのです!

ハーシムとダーウードの論争は激しさを増す

熾烈な応酬は熱を生み、熱は場に伝播する

穏健派も改革派も一人また一人と持論を語りさらに熱は上がり声も大きくなる

その声量で以って自らの正しさを証明しようとするかのように喧しさを重ねる

rBbqB1c.png改革の歩度は然程重要ではない。火を強めようと弱めようと蝋燭それ自体が短ければ役を果たす前に燃え尽きる

臣下全てに戦慄が奔る

王が国家の命運は尽きかけてると言っているかのようであった

d311emK.pngお言葉ですが、陛下は少しばかり…悲観が行き過ぎてはおられませんか?

急進派の財務大臣アブドゥル・マージド・ザーブリーが恐る恐る述べる。

d311emK.png先王陛下の御代は確かに諸民族の反発は著しくありましたが今や悉く鎮められております

zUWvCIv.png治績は無いと仰られましたがアフガニスタンは国際連盟に加盟し世界から承認を受け、英露からの干渉に煩わされる事も無くなり申した

ehClQuc.pngそうですとも。陛下が懸念されるよりは内外平穏で御座います

穏健派の外務大臣ハージー・ファイーズ・ムハンマド・ジケリアも続き、ハーシムが王を窘める

しかしザーヒル王は首を横に振るった

rBbqB1c.png余はそうは思わん。部族と民族が犇めくこの国でバーラクザイ朝の正統性は軽く、ましてムサーヒバーン家の歴史的価値など吹けば飛ぶ

rBbqB1c.png今であろうと先であろうと権益を損ねれば彼奴等は武器を取る

rBbqB1c.png国際連盟も胡乱。我らより早くに加盟したエチオピア帝国がイタリアによって存亡の危機にありながら碌な手を打てぬ

rBbqB1c.png英露が退いたのは大戦によって疲弊しているに過ぎん

s3S7tNN.png

rBbqB1c.png王朝に必要なのは部族氏族が平伏すに値する武威のみ。それは周囲の大国が睨み合って動けぬ今しか出来ぬ

ehClQuc.pngペルシアと戦争なさる御心算か!?彼の国も英露の緩衝国。火蓋を切れば両大国とも介入に動きますぞ

rBbqB1c.png否、新疆である。ムスリム同胞の解放を掲げよ

zUWvCIv.pngどうかお考え直し下さいませ陛下!中国は英露に及ばずも大国であります

rBbqB1c.png南京政府は掃共で手が塞がっている。また盛世才は独立国が如く振舞いと聞く。全面戦争にはならぬ

誰しも困惑し何を口にすべきか躊躇う中、唯一人ダーウードは思考を巡らせる

dAA1Tnq.png(新疆を影響下に置いているのはソビエト。新疆への侵略はロシアを刺激するのです)

dAA1Tnq.png(ですが表面上中国の支配を認め、モンゴルと中央アジアの安全こそ目当て)

dAA1Tnq.png(盛世才の面従腹背は有名。イギリスを刺激してまで新疆に与するとは考え難いのです)

dAA1Tnq.png(一時の関係悪化は受け入れここは…)

dAA1Tnq.png私は陛下のお考えに賛同するのです!

ehClQuc.pngzUWvCIv.pngd311emK.png

dAA1Tnq.png東トルキスタン独立運動の折、ヤルカンドに散ったアフガン人義勇兵への国民の同情は深く、中立を執った政府に対する不満は軍人を中心に広く燻っているのです

d311emK.pngた、確かに解消できる不安要素があるなら、行動できる内に晴らしてしまうのも、良い…かも、しれません

ダーウードの意図を察したザーブリーが吃りながらどうにか思ってもいない言葉を繋げる

国王に阿り自派閥への便宜を望む

他の急進派もしどろもどろに賛意を上げると、不興を買いたくない穏健派も渋々と従わざるを得ない

会議は新疆侵攻へと大きく舵を切る

計画が定まると政府は戦争に向け慌ただしく動き始める

少なくとも今は穏健派も急進派も無い

PeNBAd0.png

rBbqB1c.png…この国を壊さなければならない、決して潰すことなく

北へと向かう軍を王宮より眺める王の呟きは誰に知られる事無く風の騒めきに消えていった


トップ   編集 凍結 差分 バックアップ 添付 複製 名前変更 リロード   新規 一覧 検索 最終更新   ヘルプ   最終更新のRSS
Last-modified: 2021-07-06 (火) 18:56:07